瞳の中の少女…20
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/17 23:44:31
通り魔の犯人は、仙道君だった。
通り魔が捕まり、その正体が解った時は学校中が、いや世間が大騒ぎとなった。生徒たちも同じ高校の生徒だったとは夢にも思うまい。
叔父は被害者たちの共通点を僕から聞いた時から、仙道君をマークしていたらしい。秘密裏に身辺捜査をしていたんだそうだ。
井上さんを送った時に、叔父からの電話は仙道君のことを聞くためだった。
そして、井上さんを襲う瞬間を桂木が取り押さえ、そこに僕が遅れて加わった。
取り調べの時の仙道君は、何がどうなっているのか理解できず、どうしようもない不安で震えていたそうだ。だが別人格の仙道薫が出てくると、表情は一変した。
太々しい態度、傲慢な口調、敵意に満ちた目、全て仙道君には無いものだ。
叔父も取り調べには苦労したらしい。何せ、目の前にいるのにコンタクトができないのだから。彼女は取り調べを開始するやいなや、取調室にあるマジックミラーを見て微笑んでいる。何の質問にも、答えは返ってこなかった。
取り調べの論点は、他の犯行も彼女だったのかである。
『他の事件も君がやったのか?』
『・・・・』
このまま黙秘になってしまうかと思っていたその時、彼女は突然口を開いた。
なぜなら、他の被害者の名前を耳にしたからだ。彼女にしてみれば耳障りな名前。
それを聞いたとたんに、烈火のごとく喋りだしたそうだ。おのずと、全ての事件を自供したことになる。
犯行の詳細を事細かに話す彼女は、怒りに満ちた顔でもあり楽しそうでもあったという。
叔父は、目の前の男が変化していく様を克明に見た、不思議な感覚だったという。
彼女は、仙道君のことを愛しているのだ。まったくすごい話だ、究極の自己愛、いや人格が別なのだから自己愛とは呼べないかもしれないが…
確かに仙道薫は仙道君を愛している、それだけは叔父も理解できたそうだ。
しかし、彼女の独壇場が終わると、また沈黙へと入っていく。何一つ刑事たちの話には耳を傾けず、鏡を見るばかり。
そして、裁判が終わり病院に装置され、今までこの状態だ。まさに、壁に囲まれた一人であって二人の世界。彼女にとっては壁を創って一人になることが、最高の幸せであり天国なんだ。