春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」20
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/16 00:24:25
「と、まあ。 ここまでは、君も推理出来ただろう。現に、神戸フェリーと言う密輸を荷担(かたん)していると思われる所まで調査した訳だからな。」
「そうですね・・・。」
「結晶大麻は主にヨーロッパの医療で使用されている大麻なんだ。 麻酔薬として使用されているそうだが・・・。 近年、使用中止が決まり、現在では殆どの国で使用が出来ない状況にあるそうだ。 しかも、高濃度となれば尚更の話だ。 まあ、結晶化すれば大抵は高濃度になるんだけどね。」
「そんな物が、何で日本に密輸されて来たんでしょうか?」
「暴力団の資金源とか、そんな生やさしい物ではないな・・・。恐らく、政治が絡んでいる事件かもしれん。」
「かなり大事になってきてますね・・・。」
「それだけ厄介な代物だったって事だ。 ともかく、一刻も早く調べて、見つけださないと大変な事になる・・・。」
「ですね・・・。」
「所で、谷本君の方は進展があったのかい?」
谷本は先程の喫茶店の出来事を木村に報告した。
「やはり、女か・・・。」
「喫茶店のマスターの話では、秘書らしき人物だったそうですが・・・。」
「それと、人相の悪い人物。 暴力団関係者が動いてるのは事実だろうね。」
「殺された山岡は、薬を服用していたって事ですが・・・。」
「ああ、その件は解決してる。 高血圧の薬だそうだ。」
「やっぱり早いですね・・・。」
谷本は感心して言う。
「これは初期の段階で分かってた事だよ。害者の鞄から薬のケースが出てきたからな。すぐに警視庁へ問い合わせたんだ。 まあ、あの体格だからな。」
「そうだったんですか・・・。」
「それと、結晶大麻の情報をくれたお礼に、こっちも情報を提供しよう・・・。まあ、警視庁に問い合わせて分かったんだが。山岡はどうやら多額の保険金を掛けられていたようなんだ。」
「保険金ですか?」
「ああ。 この一件に関しては、奥さんも知らなかったらしいんだが・・・。」
「そうですか・・・。何かありそうですね・・・。 で、受取人は?」
「やっぱり鋭いなー。 受取人は太田 有三だそうだ。」
「太田 有三?」
「太田金融って言えば、話が分かるかな?」
「あーぁ。 カッパの姉ちゃんが大勢でダンスしてるCMですね。」
「そうだ。 太田 有三はその太田金融の取締役社長だ。」
「成る程・・・、話が読めてきました。」
「太田 有三は政界にも繋がりがあるからな。 さっきの政治絡みの話はここから推測しているんだ。」
「週刊誌に言ったら飛びつきそうなネタですね~。」
谷本は腕組みして言った。
「をいをい! そんな事はしないでくれよ・・・。」
木村は困惑して彼をたしなめる。
「事は重大だからな。 慎重に行かないと、事件そのものが揉み消される恐れがある。」
「僕がそんな風な人間に見えますか?」
「俺は谷本君を信用してるからな。 でなけりゃ、こんな話すらしないよ。」
「ですね・・・。 分かりました。 僕の心の内に止めて置きます。」
彼は神妙な顔立ちで答えた。
「でも、受取人が金融会社の社長って・・・。」
「ああ。 どうやら山岡が殺される数日前に、経営する宝石店が倒産していたらしいんだ。 その資金繰りを出していたのが、太田金融だったらしい。」
「ちょっと待って下さい、警部! もし、今回の出来事が政治絡みで、結晶大麻の大元が太田金融なら、山岡が経営していた宝石店がなんで倒産するんですか? しかも、保険金の受取人が太田 有三本人って? どう考えてもおかしいじゃないですか。」
谷本は興奮して木村に詰め寄る。 木村は苦笑しながら答える。
「まあ、そう興奮するなよ。 まだ、調査段階でハッキリとは言えないんだが・・・。
どうやら、山岡は太田に密輸を勧められて動いていたらしいんだ。 命令と言った方が無難かな? 宝石店は強制的に倒産したと考えた方が妥当だと思うんだがね。」
「そこまで詳しい調査って、一体・・・。」
「警視庁でも例の密輸の一件で事件を追っていたそうなんだ。 結晶大麻にしたって、僕らでも今まで見たことない代物だったからね。 それがここ最近になって頻繁に見かけるようになった。それでいて警視庁がマークしていた山岡が京都で殺害された・・・。」
「それで、警部は密輸の拠点が関西エリアにあると考えた訳ですか・・・。」
「まあ、そう言う事だ。 一介の宝石店の社長が度々関西を訪れるのはおかしいからね。しかも、チェーン店でもないのにだ。 貴金属の取り扱いだけなら横浜に行ったって買い付けは出来るだろ?」
「まあ、そうですね。」
「谷本君のおかげで、密輸しているらしき企業も浮かんだ。」
「それは僕じゃなく、先生です。 先生が依頼を受けてなければ、僕もここまで知り得てなかったでしょうから。」



























