Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」19

 「警部、鑑定結果が出ました!」
 昼過ぎ、そう言って慌てて部屋に飛び込んできたのは小山刑事だった。
 「そうか! 出たか。 で、どうだった?」
 書類を見ていた木村が立ち上がって聞く。
 「やっぱ、谷本君の言うように、結晶化した大麻でした。しかも相当な濃度みたいです。」
 小山は鑑定報告書を木村に見せて言う。
 「高濃度の結晶大麻か・・・。間違いなく密輸品だな! よし。杉本、高見。兵庫県警に協力要請をして、神戸フェリーを当たってくれ。」
 「分かりました!」
 二人は部屋を出ていった。
 「小山。 谷本君に連絡を・・・。」
 「警部。さっき電話がありまして、もう間もなくこっちに来るそうです。」
 「そうか、分かった。」
 その時、部屋の電話がけたたましく鳴り響いた。
 「警部、警視庁からお電話です・・・。」
 「こっちに廻してくれ。 もしもし、木村です・・・。」
 谷本が京都府警に到着したのは、そんな慌ただしさ真っ最中の頃だった。
 「すいませーん。 大村探偵事務所の谷本ですけど・・・。」
 「ああ、いらっしゃい。 警部は今電話中なんだ。こっちでチョット待っててくれるかな?」
 小山は彼を出入り口の端にある応接セットに案内した。
 「しかし、何時来ても慌ただしい部屋ですね・・・。」
 谷本は周りを見渡して言う。天井や壁に所々ヒビが入っているのは、古びた感じだけではなく年期さえ感じられる建物だ。職員のデスクには書類が山積みされているが、ある一角だけは書類すらない。
 「ああ、そこは僕のデスクなんだ。」
 「書類がないですね・・・。」
 「ちゃんと整理してるからね。 アレに・・・。」
 彼が指さした方向に、今流行のパソコンが置いてあった。
 「最近のは、昔と違って優秀だからね。 いちいちプログラミングする必要がないんだ。
って、君に説明しても・・・。」
 「学校で習いましたよ。 最近じゃ、どこもPC教室ってありますからね。」
 谷本はムッとした表情で答える。
 「ゴメンゴメン。 君ら世代じゃ常識の範疇(はんちゅう)だったね。 でもココじゃ、常識は通じないんだ・・・。 見ての通り、お堅い連中ばっかだから・・・。」
 「誰が、堅物だって?」
 小山が振り返ると、電話を終えた木村が立っていた。
 「無駄口叩いてるヒマあったら、さっさと書類を提出しろー!」
 木村は小山に大声を挙げて怒鳴った。彼は飛び上がるようにして、デスクに戻った。
 「まったく・・・。最近の若い奴は・・・。」
  彼はソファーに座って愚痴をこぼす。
 「まあまあ、警部・・・。」
 「PCだったっけ? あんな物で書類整理が出来るわけがない・・・。しっかり帳面に書いてだな・・・。」
 木村の愚痴が続く・・・。
 {小山さんの言うことも分かるなぁ。 警部程の年代じゃ、説明するのも煩わしいし・・・。}
 「で、谷本君から提出された証拠物なんだが・・・。」
 ようやくソレも終わり、木村が書類を出す。
 「いいんですか? 重要書類を僕に見せても・・・。」
 「なーに、減る物じゃないし・・・。俺と君の仲じゃないか。 それとも、見たくないのかい?」
 「いえいえ、見させて頂きます・・・。」
 「鑑定の結果を率直に言おう。 高濃度の結晶大麻だったそうだ。それが小麦粉に混じって入っていた。」
 「高濃度ですか?」
 谷本は驚いた。
 「いや、確かに・・・。 普通の粉末大麻とは違って、ザラザラした感じがありましたど・・・。 実際に作れる物なんですか?」
 「作れない・・・。いや、日本では作れないって言った方が正しいな。」
 「どういう事でしょうか?」
 谷本は身を乗り出して聞く。彼はお茶を一口すすって答える。
 「日本では生成、特に結晶化するのを禁じているんだ。 生成しているのは、厚生省が 定めた特別の場所だけ。 まあ、劇物だから当然なんだが・・・。それでも、粉体状が一般的な物だ。 だが今回、キミが持ち込んだ結晶大麻。 日本では禁じられている結晶大麻が、何故ココにあるのか? 答えは簡単。密輸された物だからだ。」
 木村は一端話を区切る。

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