Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」17

 谷本はA商業施設に向かう。京都駅八条口の東側にあるKホテルと隣り合わせの商業施設だ。彼はその地下にある喫茶店へ入った。モーニングが終わった時間帯の喫茶店はガランどうとしている。アイスコーヒーを注文した時、ウエイトレスに害者の写真を見せた。
 「この人・・・。 何処かで見たことあるんよね~。」
 「ここに最近、来たって事はないですか?」
 「うーん、わかんない。 店長、見たことある~?」
 アルバイトだろうか? 若いウエイトレスがマスターに声を掛ける。マスターがアイスコーヒーを作りながら言った。
 「宝石商の山岡さんだろ? 知ってるよ。」
 「そうなの?  お客さん、店長が知ってるって!」
 「詳しく教えてくれませんか?」
 「知ってるって言ったって、付き合いがあるわけじゃない。店の常連なだけさ。こっちに来ると、ウチの店に顔を出してくれてるんだ。」
 「何時も一人で来られるんですか?」
 「いや、人相悪そうな客と一緒に来ることもあるよ。 ありゃ、コレもんの人だな。」
 マスターは顔の頬を指でなぞる。
 「山岡さんは、仕事の取引先の人だって行ってたけどね。」
 「しょっちゅう来るんですか?」
 「うーん、月に2、3回かな。」
 「いつ頃からここへ?」
 「いつだったかな~。 もう、5年位前だったと思うんだけど・・・。」
 「最近、ここへ来ましたか?」
 「ああ。 3日前だから、20日か・・・。 朝の丁度今頃に、秘書らしき若いねーちゃんと来たよ。」
 マスターは時計を見て言った。時刻は10時を少し廻っていた。
 「秘書らしき? らしきってどういう事ですか?」
 「いつもは一人とか、取引相手を連れて来るんだけど、何だかスケジュールの打ち合わせで来たみたいだね。 何日がどうとか言ってたよ。」
 「そうですか・・・。」
 「所で、お前さん。 何で、山岡の社長を調べてるんだ?」
 今度は逆にマスターが谷本に聞いてきた。
 「実は・・・。彼は21日の13時頃に、東寺で何者かに殺されたんです。」
 「殺された! 社長がか?」
 「ええ。ニュースでも、新聞でも言ってましたよ。」
 「俺はニュースは見ない。 ここにゃ、テレビもないしな。こうやって、有線放送しか掛かってない・・・。」
 マスターがボリュームを上げると、バックミュージックに有線放送のクラッシック音楽が流れてきた。
 「モーニングのピークを過ぎると、ちょっとボリュームを落とすんだ。社長は、そのピークを過ぎた時間に来て、コーヒーを飲んで行くんだが・・・。そうか、殺されたんか。」
  マスターはため息を吐く。
 「何か、心当たりでもあるんですか?」
 そう言う心情を察してだろうか。谷本は聞いてみた。
 「宝石商って言うのは敵が多いんだって、だから常に用心をしておかにゃならないって社長が言ってたのを思い出したんだよ。 老い先短いって思ってたがなぁ~。」
 再びマスターは大きなため息を吐いた。
 「殺された山岡に、持病か何かありましたか?」
 「そりゃ、あの体格だ。 何かの症状が出てても不思議じゃないだろうな。コーヒーを飲み終わった後は、必ず薬を飲んでたよ。」
 「それは錠剤ですか? カプセルですか?」
 「さあ、分からんね。 いつも決まった席に座るからね。ここからじゃ見えないんだ。ほれ、あの一番奥の席だよ。」
 マスターが指をさした場所はカウンターの位置からL字型に折れた先の一番奥だった。
確かにここからでは席の様子を見る事が出来ない。それどころか、話を聞くのも困難だろう。彼が仕事をしてたり、賑わった店内では尚更無理だ。
  「彼に骨董収集の趣味はありましたか?」
 「さあ~。 いかんせん、客と店のマスターって言う立場だし、根堀葉堀聞くほど暇じゃないしな。 第一、いつも30分程で何時も帰ってしまうからね。 
 いや、ちょっと待てよ。 一回だけ2時間程いた事があったな。 確か、去年の今頃だったと思うが・・・。」
 「2時間も何を?」
 「ホラ、さっき人相悪そうな男が来たって言ってたろ? あの時だよ。 そういや、社長が来たのは珍しく夜だったな・・・。」
 「それは何時頃か覚えていらっしゃいますか?」
 「多分、閉店間際だった様な気がするぞ。 ここは、この商業施設が夜10時で閉館するからそれに合わせてるんだが、9時頃に来て10時を廻って閉店だって言ってるのに、ずーっと話をしてたな。結局、俺らは社長がいる中で閉店作業をして、裏口から一緒に出たんだ。ありゃ、言わなけりゃ永遠と喋り続けてたよ。」
 「なるほど・・・。」

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