北の少年 砂海編 50
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/12 19:06:28
このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。
長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;
バールオアシスでの2日目の夜明けが始まろうとしていた。
新たなるロウ・ゼオンの真の王となったロヴは、自分の務めを果すためまだ暗いうちから寝床を抜け出した。
たとえ王になろうが、魔法使いになろうが、今はケニス・キャラバンの下働きロヴだ。
仕事をさぼろうなんて考えは、少しも思わなかった。
『自分のことは自分でする。与えられた仕事はきちんとする』
祖父のハランが最も強く教え込んだことだ。
一昨日、無謀な魔法を使ったせいで、まだ体調は万全ではない。
それでも昨日に比べたら、今日の目覚めは良かった。
全身の激痛もほとんどない。
家畜の面倒をみるため動きやすい服装だが、もう赤い髪をかくす布は巻いていなかった。
祖父の守護がなくなったため、もはや変装しても無駄だと悟ったから隠すのをやめた。
短剣だけは盗難をおそれて、ありふれた姿に戻したが。
ロヴはそっと、腰の短剣を握り締めた。
昨晩、刃に刻まれた文字が変化してから、心臓の鼓動のような脈動を感じる。
まるで生きているかのように、手の中でそれを感じる。
(ほんとうに、この短剣は生きているのかもしれない)
人狼が大いなる命の流れに還る前、夢の中で言った言葉がふいに思いうかんだ。
『 短剣、大事 短剣、メタモルフ、同ジ臭いすル 』
(あれは、どういう意味だったのか?)
匂いに敏感な人狼が、短剣とメタモルフ…共生獣と同じ匂いがするといった。
それが何を意味するのか、今さらながらに気になってきた。
馬や騾馬や駱駝達に飼葉と水を与えながら、ロヴはずっとそのことを考え続けた。
夢にまで現れて伝えた言葉だ。
深い意味があるはずだ。
何かひらめきがつかめそうだと思ったとき、いきなり話しかけられて思考を中断された。
「おや、ロヴ、もう起きてきたのかい。早いねえ。大丈夫なのか?」
そう声をかけてきたのは、起き出して来たケニスの使用人たちだった。
骨惜しみしない少年に、彼らも好意的だ。
「おや、お前さん。赤毛だったのかい?」
布を巻かずにいるロヴを始めてみた使用人は、驚いたように少年の顔を見直した。
赤毛の少年は、昨日と比べて数段大人びて見えたのだ。
「砂海を越えたら、この赤毛もめだたないと聞きましたから」
ロヴはにっこり笑って、そう答えた。
かすれていた声も若干低くなって、少しだけ聞きとりやすくなっていた。
「声変わりも落ち着き始めたようだね」
「そうみたいです」
「これからうんと背ものびてくるよ」
「そうだといいですね」
(本当に、早く大きくなりたい。ジェンに恥ずかしくないように)
剣を捧げてくれた大切な戦士に相応しいように。
ロヴはそう、決意を新たにする。
黙々と仕事をこなしながら、少年の心ははるか遠くのまだ見ぬ故郷に飛んでいた。
夜が明けきった頃、ケニス・キャラバンの一行は出発の準備を整えていた。
主のケニスとメルガ夫妻のそばには、護衛の傭兵ジェンが武装を整えて、草原馬のルーダに騎乗している。
彼女の視線の先には、騾馬に乗った赤毛の頭をさらした少年の姿があった。
周りの大人たちから、赤毛のことをからかわれているらしい。
時々頭をくしゃくしゃにされて、苦笑を浮かべている。
「ジェン、ロヴは赤毛を隠すのをやめたんですのね」
メルガがそう聞いてくる。
「そのようです…」
(あいつは、ロヴはなあ、ほんまに大人になりよったで)
カイルはジェンの右肩といういつもの定位置に座って、金色の目をすっと細めた。
(ジェンに聞かせてやりたいわ。今のロヴの心の声。低いええ声やで)
(もう、掠れた声じゃないのか?)
ジェンは不思議そうにそう問いかけてきた。
(ああ、ちゃう。一人前の男の声や。砂海の旅、終えるころにはジェンも聞けるわ)
(そうか、楽しみにしておこう)
おもむろにケニスが右手を上げる。
いよいよ出発だ。
ケニス・キャラバンの全員が、話をやめてそれぞれ騎乗する動物たちを制御する。
先頭のラルムがケニスの合図に呼応して、大きく声を張り上げた。
「出立するぞ!」
地鳴りのようなどよめきが、何処からともなく湧き上がった。
嵐のような2日間を過ごしたバールオアシスを後にして、隊商は次の目的地へ向かって動き出した。
それは、北の少年が王への道を歩みだした最初の一歩でもあった。
やっと、やっと。砂海編が終了しました。
次から激闘編(予定)になります。
これからもどうぞよろしくね m(_)m
ありがとう^^砂海編、ようやくピリオド打てました。
書き出した時は、こんなに長くなるとは思わなかった。
次の激闘編もどうぞよろしくね。
まだまだ色々な謎を残しつつ、次なる冒険を楽しみにしています!
忙しい中、読んでくれてありがとう^^
私もここにたどり着くまで、しばらくスランプで「逃げ」てばかりいました。
なんとかこの話を。最後まで書き終えられた。
それはシンさんをはじめとするみなさんの、励ましや感想のおかげです。
シンさんもいろいろ大変でしょうが、どうかゆっくり旅をしてください。
お願いについては、大丈夫。私はハッピーエンドが好きな人間です。
北の少年は不幸にはしません。苦労はさせると思うけど^^;
赤毛の悪役は…どうなるかなw?
遅ればせながら、出張先のホテルにて3話分完読しましたw
まずはおつかれさま。
スランプから抜け出せない私ですので、
ここまで書き上げたことに敬意を表します^^
激闘編に行く前に一つだけお願いしていいスか?
不幸な結末にしないで下さいね
赤毛の少年だけに^^;
長い話になりましたが、まだジェンとロヴの出会いからも10日ほどです。
だから2人の出会いがターニングポイントというわけdす。
赤毛が多いのがロヴの故郷、ロウ・ゼオンの特徴です。
ブータンというより、ヨーロッパの僻地みたいなイメージでしょうか?
闘い、死、秘密の暴露、決意…ターニングポイントというのはいきなりやってきて、
なにもかもをがらりと変えてしまうんですね。ドラマチックな章でした^^*
王様のタマゴ、青年見習いのロヴ君がこれからどう動くか楽しみです。
そういえば、ロヴ君は赤毛だったんですね。異質なものの象徴になる事が多いですが
そういう人が多いという事は、やはり砂海の向こうは特殊なイメージの場所なんでしょうね。
赤毛ということは色素が薄いわけで、やっぱブータンは無いか~と思い直したところですw
そうなんです。
闘うヒロインと少年の成長物語だったのですが、ロヴが育ちました、
あと、人狼が予想以上に大きな存在になりました。
激闘編、頑張ります^^;
ロヴ、たくましくなりましたね。
砂海編でも結構大変だったのに次から「激闘」、、大変なことになりそう。
やっと、ここまでたどりつきました!
自分でもよく書いたなあと思います。
これからもどうぞよろしくね^^
いよいよ、次のお話にうつります。
登場人物は変わりませんが、これからもよろしくね。
ロヴの決意が 静かに 強く伝わってきます
楽しみに 待っていますね♪
王になる決心がついたみたいで
これから激闘編だから
どんな戦いになるのかワクワクしますね♪