春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」16
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/11 21:34:57
同日、7時55分に事務所へ出社した谷本はいつもの通り、留守番電話の再生を入れる。
『わしじゃ。 今、岡山駅におる。これから天橋立に向かう。お前の事じゃから、事件のヒントくらいは掴めてる頃じゃろ? 今は依頼人の太田 陽子を尾行しちょるが、何故か男と一緒じゃ。どうやら、高知で知り合ったらしい。また連絡する。それと、携帯の電源は常に入れておけ!』
どうやら、声の主は大村の様だ。相変わらず用件しか言わない。
「やっぱり先生は、依頼人を追って行ったんだ。 で、次の目的地は天橋立か・・・。」
彼はため息を吐いて言った。天橋立のある京都府宮津市は谷本の第二の故郷でもあるのだ。
「さて、仕事仕事。 山岡の足取りを掴まなくちゃ。」
昨日と同じく、愛用のカメラをバッグに入れ、東寺へ向かった。
東寺は京都駅から南側に歩いて15分の所にあるお寺で、正式名称は『金光明四天王教王護国寺秘密伝法院』と言うが、もっぱら『教王護国寺(きょうおうごこくじ)』と言う呼び名で通っており、通称を『東寺』と呼ばれている。796年に藤原伊勢人という人物が建立したが、823年に弘法大使空海が嵯峨天皇から東寺をもらい、国家鎮護の寺院であるとともに、真言密教の根本道場となった。そういう言われがあるので、京都の人は東寺の事を弘法大師空海の名を取って『弘法さん』と呼ぶようになったと言う。京都人が遠方から帰ってきた時、この敷地内にある五重塔を見ると『ああ、帰ってきたんやなぁ』と思うらしい。
谷本はまず死体が発見された現場、宝物館のトイレに向かうことにした。既に立入禁止のテープは取り除かれており、平日の午前中とあってか人は殆どいなかった。
「警部の話だと、害者がここで倒れている所をトイレに入ってきた人が見つけたと言ってたな。 で、死因は青酸カリによる窒息死か・・・。 司法解剖の結果では、カプセル状の薬物を飲まされた形跡があるか・・・。」
彼はトイレを出て、東門へ向かって歩く。
{カプセルって事は、それが溶けるのに時間が掛かる筈だ。 死亡推定時刻が13時頃って事は、少なくても2時間程前に薬物か何かを服用したって事になるな・・・}
参道の石畳を歩きながら考えていると、東門が見えた。それを左に曲がった所に害者が目撃された饅頭屋があった。
{宝物館からここまで歩いてくるのに約5分。当時は弘法さん(ノミの市)だったから、30分位は掛かっただろう。 仮に、警部の言うように饅頭の中に薬物が入っていたとすれば、11時までに饅頭屋に行き、饅頭を買って食べなければならない・・・。しかし饅頭屋の証言では、二人が訪れたのは12時過ぎだと言う。}
谷本は周りを見渡した。東門がある場所は、京都駅からもっとも近い位置に存在する。目の前にバス停もあり、交通の便も悪くない場所だ。
{害者には、薬物を飲まなければならない事実があったんだろうか? その事を犯人が知っていたとすれば、犯人は害者に近い存在になるな・・・。}
谷本は東門を出て東へ進む。地元では『東寺道』と呼ばれている道路だ。ここもノミの市の時には骨董品を並べる露天で一杯になる。
{それと、害者は何故、ここへ来たんだろう・・・。 骨董品の収集が趣味なんだろうか? それとも、ここで密輸の取引でもあったんだろうか?}
東寺道を200m 程歩くと、国道1号線に出る。彼は左に曲がる。数分もすれば、右手に京都駅が見えてくる。
{東門から京都駅八条口まで約15分。ゆっくり歩いたとしても、30分程だろう。
もし、薬物を飲むとすれば、喫茶店か何処かへ入る筈だ・・・。俺みたいに、自販機のお茶って訳でもないやろうしな・・・。宝石店の取締役だったそうやから・・・。
とりあえず、先生が依頼人と会ったと言う喫茶店へ行ってみよう。何か掴めるかも・・・}




























犯人は新たにでてくるのでしょうか?
それとも登場人物のうちの誰かがそうなんでしょうか?
気になります☆
以前にもここで掲載しましたが、これは彼のクセです・・・。谷本曰く『独り言を言う事によって、頭の中の考えや疑問が整理される』だそうです。
はたして、山岡を殺害したのは・・・? そして、事件の真相とは? 次回をお楽しみに。^^