Nicotto Town


フリージア


瞳の中の少女…8

 その日の晩、彼女は写真を見ながら歯ぎしりをしていた。でもしばらくすると彼女は笑顔に戻る。壁に掛かっている大きな写真の方を見ると、そこにも彼女と同じ屈託のない笑顔を少年が投げかけている。

 「あなたも嬉しいのね」

 ようやく鼓動の落ち着いた彼女は、一つ息を漏らして言う。

 「あなたは…」

 彼女の瞳は濁っていた。
 淡い桜の色は見る影もなく、血の色が眼球を包んでいく。天から降り注いだ血液が、全て彼女の瞳に注ぎ、その血の色から想像できるあらゆる憎悪が網膜に付着していく。どんなに他人が洗浄しても取ることはできない。
 元の色に戻すには写真の少年の微笑を見ること。
 彼女自身に投げ掛けられた笑顔でなくてもいいんだ。屈託のない笑みを吸い込み自分のものとする。
 彼女は、それで満足なんだ。




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