Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」15

 7月23日 木曜日 10時22分、ひかり30号は定刻通り京都駅に到着した。
 「京都か・・・。訪れるのは久しぶりだな。」
 列車を降りて小田が言う。
 「以前に来たことがあるんですか?」
 ツバの少ない麦藁帽子を被り、少し大きめのサングラスを掛けた太田が聞いた。
 「ええ、仕事で・・・。 冬の京都って事で、金閣寺などのお寺を廻った事があるんだけど、京都はそれ以来ですね。」
 コンコースのエスカレーターを降りながら、小田は懐かしそうに言う。
 「冬の京都も良いですよ。 私も、幼少の頃の記憶しかないけど。昔、父に連れられて何度かこっちに出てきた事があります。」
 「こっち?」
 小田は疑問に思い、聞き返した。太田は笑って答える。
 「北部の人は都会に行くことを『出る』って言うんです。向こうは郡部の田舎ですから・・・。」
 「なるほど。 地方出身者が上京するのと同じなんですね。」
 「単純に言ったらそうなりますね。 あっ、この通路の突き当たりを左に降りて下さい。」
 太田は指さして言った。なるほど、その方向の看板に山陰線の文字が書いてある。二人はホームの上に掛かっている跨線橋と呼ばれる通路を歩き、新幹線ホームとは反対側の方向へ歩いて行った。
 「太田さん、知っていましたか? 京都駅は日本で一番長いホームを持ってるんですよ。」
 山陰線ホームへと降りる階段で小田は彼女に言った。
 「そうなんですか? 初めて聞きました・・・。」
 「何でも、北陸へ向かう1番ホームと、山陰線の1番ホームがくっついてるらしくて、長さが500m以上あるそうです。通常は300m弱ですから、かなり長いホームですね。」
 「ホント。 長いホームね。 今まで気が付かなかったわ。」
 階段を降りきって、太田はホームを見渡す。丁度、二人がいる左側が北陸方面へ向かう京都駅1番ホームで、右側が山陰線の1番ホームになっていた。
 「太田さん、僕らの乗る列車はアレみたいですよ。」
 小田は指さしながら彼女に声を掛けた。彼が指さす方向にそれは停車していた。クリーム色の車体に赤のラインが入った列車。急行の『丹後』号だ。
 「しかし、キハ58系の車両に乗れるとはね。 ホント久しぶりだよ・・・。」
 彼はカメラを構えて列車を撮影していく。
 「小田さん・・・?」
 太田が声を掛ける。 彼はバツが悪そうに振り返る。
 「ゴメン、ゴメン。 東京じゃ、あまり見かけない車両だから。 つい・・・。」
 「そんなに走ってない列車なんですか?」
 「うーん、そうですね・・・。関東じゃあまり見かけないですね。 もっとも、長野とか新潟まで行けば話は別でしょうけど・・・。電車じゃなくて気動車だから、電化されていない区間でしか走ってないんです。 山陰線ではお馴染みの車両らしいけど・・・。」
 「でも、ここ、電化されてますよ。」
 太田は上を指さして言った。その方向には電線が張ってある。
 「ああ、それはね。さっき通路にポスターが貼ってあったんだけど、最近、園部(そのべ)と言う駅まで電化されたみたいですね。 目的地の天橋立は、ソレよりずっと先ですよね? その証拠に、隣の車両は電車です。」
 彼女が横を見ると、ホームの右端に電車が停車していた。
 「関西ではお馴染みの113系という車両らしいですね。 関東じゃ、東海道線を走ってる車両です。」
 「小田さんって、列車に詳しいんですね。」
 太田は呆れた様に言った。
 「まあ仕事柄、旅する事が多いから・・・。 もっぱら風景写真ばっかりですが、たまに依頼で鉄道写真を撮影する事があるんで、それで覚えたんです。」
 二人は『丹後』号の自由席に座る。急行に相応しい非転換型のクロスシート(4人掛けの座席)が国鉄時代の名残を匂わせる列車だ。車掌の行き先を告げるアナウンスが流れる。
 「お待たせしてます、急行『丹後1号』の網野(あみの)・敦賀行きです・・・。」
 「ねえ、小田さん。一つ聞いてもいい?」
 車掌の放送が終わろうとしている時に彼女は問いかけた。
 「今、案内放送で停車駅を言ってたでしょ? その時、車掌は『敦賀まで案内します』 って言ったけど、この列車って網野まで行くわよね。 途中で別れるなら、網野行きは車掌がいないのかしら?」
 「どうなんだろうね? 僕にも分からないよ。」
 そうやって話をしている時、サングラスを掛けた男が見ていようとは、二人とも気が付く筈もなかった。

#日記広場:自作小説

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2010/09/10 00:12
今回は15話を掲載しました。 謎の男が現れましたが、一体、誰なんでしょうか?


 所で鉄道に詳しい方はお気づきでしょうが、今はもう無くなった急行「丹後」号が出てきました。実は、僕の出身高校が京都府宮津市にありまして、寮生活をおくってたのですが、原作をそこで書き上げたんです。で、月に一度、実家に帰省する時に使用していた列車がこの急行「丹後」号と、今回の作品では出てきませんが、特急の「あさしお」号だったんです。双方とも僕の思い出の車両ですが、特に急行「丹後」号に使用されている車両が僕は好きだったので、ちょっとマニアックに掲載させて頂きました。

 が、なにぶん昔の話を修正しながら書いてるので、急行「丹後」号に関するデーターは、ウィッキペディアを参考にさせて頂きました。 だって、記憶と相違があったら、鉄道ファンからクレームがくるでしょ?
僕も鉄道ファンですし、やっぱ、思い出の列車でもありますからねぇ~。



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