春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」14
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/08 23:30:37
「そして、ファイルにあった袋に入っている謎の粉か・・・。」
「先程、警部がおっしゃった司法解剖の結果の時に『やっぱり』と呟いたのは、僕の推理が正しかったんだと思ったからです。」
「しかし、君の説明を聞いてると、俺は君を逮捕しなくちゃならんな。」
「何でですか?」
「そりゃ、不正薬物所持違反だよ。 覚醒剤にしろ大麻にしろ、どっちだか分からんが、不正薬物には変わりないからな。」
「それは、先生が・・・。」
谷本はドギマギして答える。
「まあ、『証拠』として提出してくれるのなら、話は別だが?」
木村はニヤついて彼に問いただした。
「あっ、きったな~い! そういう手段を取りますか?」
木村がいつも使う手法である。あーだこーだと難癖をつけて、大村や谷本が集めた情報と証拠物を『押収』という名目で取っていくのだ。
「どっちにしろ、重要な証拠物である事には変わりがない。 提出してくれるね?」
「先生に問い合わせてから・・・。 じゃ、ダメですか?」
「ダメに決まってるだろ。 証拠隠滅のおそれがあるからな。」
「僕がそんな風な人間に見えますか?」
「見えないが、一応の決まり事でね・・・。 小上をやらせるから、彼に渡してくれ。」
木村は小上刑事を呼ぶ。谷本はため息を吐いて答えた。
「・・・、分かりました、警部。 あ~ぁ、僕は何てダメな探偵員なんだろ・・・。」
「民間人は素直に警察の言う事を聞いてりゃいいんだよ。」
「け、警部・・・。 性格が変わってます・・・。」
隣にいた小上刑事がツッこんだ。彼も、いつものノリじゃないと感じ取ったらしい。
「と、とにかく・・・。 彼にその袋を渡してくれ。すぐさま鑑定するから。」
咳払いをしながら木村は言った。
「分かりました。 行きましょ、小上刑事。」
谷本は苦笑しながら部屋を後にした。
「所で、何で大村さんは高知へ行ったんだろうね。」
事務所に向かう車の中で、運転しながら小上は言った。小上は谷本よりも年齢が高い30代前半だが、彼の性格上、他人と話す時は丁寧語になるらしい。
「ひょっとしたら、依頼主が高知にいるのかも・・・。」
助手席に座っている谷本が腕組みしながら答えた。
「なるほど・・・。 調査してた人物が殺されたから、調査報告を兼ねて、か・・・。」
「それよりも、一つ気になる事があるんですよ。」
「何だい、気になることって?」
「さっき部屋で留守電を確認したら、先生から着信があったらしくて。で、まあ留守電になってたんですけど、どうやら岡山に行くらしいんですよ。」
「岡山? 高知から離れたね・・・。 依頼人がそっちに行ったのかな?」
「分かりません。 『岡山に向かう』の一言だけでしたから・・・。」
「そうか、確かに気になるね。」
「小山さんは、先生とは面識があるんですか?」
「いいや。 僕が刑事になった頃には、既に上司は警部だったからね。7年前かな、僕が交通課から移動して一課の刑事になったのは。」
「じゃ、先生の事知らないんですね。」
「うん。実際に一緒に仕事した事はないけど、噂は周りの先輩から聞いているよ。実際、凄い人だったらしいね。今の警部なんかとは全然違って、何時も怒鳴られてたって人が多かったそうだよ。」
「僕もしょっちゅう怒鳴られています・・・。」
「谷本君は大村さんに信頼されてるんだね。僕が聞く所によると、大村さんが怒鳴るって事は、その人の事を信頼してる証拠なんだそうだよ。 普通の人は無視されるらしいからね。」
「そうなんですか・・・。 」
「到着したよ。 しかし、相変わらず変な場所に事務所があるな・・・。」
車は大村探偵事務所に到着した。すっかり日も暮れた四条河原町の裏通りに車を止め、ボロボロのビルの階段を上がっていった三階に事務所はあった。
「僕も、警部に場所を聞くまでは、こんな所に大村さんの事務所があったなんて知らなかったよ。」
部屋に入るなり、小山は呟いた。
「僕もですよ。1年前までは、先生の名前すら知らなかったですからね。」
谷本は大村の席の後ろにあるキャビネットからファイルを取り出した。
「これが、例の袋です。」
「確かに預かったよ。 しかし、厳重に封印されてるな。」
「形状から言って、麻薬だと思いますが・・・。鑑定を宜しくお願いします。」
「分かった。 しかし、大村さんも証拠物とは言え、よくもまあ事務所に保管しておいたものだよ。」
「そうですね。 そのうち逮捕されますよ、きっと・・・。」
「だね・・・。 さて、そろそろ帰らないと。 鑑定依頼時間に間に合わなくなる。」
「じゃ、お願いしますね。」
「ああ。」
小山は帰っていった。
「先生、チョット心配やなぁ~。 大丈夫かな? もめ事なんて起こしてなけりゃ良いけど・・・。」
事務所の戸締まりをしながら谷本は呟いた。




























チョットここで、ここまでの主要登場人物の整理(説明)をさせて貰いますね。
谷本 治(たにもと おさむ) 20歳
本編の主人公。性格は明るいが独り言を呟くクセがある。鉄道・旅行好きで、趣味は写真撮影。愛読書は時刻表と言うチョットした変わり者。大村の元で探偵助手をやっている。
大村 神一(おおむら しんいち)75歳
大村探偵の創業者で、元京都府警捜査一課の警部。大正生まれの京都人で、頑固一徹の性格は見る物を圧倒する雰囲気を持つ。いつもは厳しいが、時折見せる笑顔には優しさを感じさせる面もある。「探偵とは聞き込みと行動と冷静な判断力である」をモットーに、日々教え子である谷本を指導する。
木村 義男(きむら よしお)46歳
京都府警捜査一課の警部。大村探偵の創業者、大村 神一と師弟関係を持つ。谷本とは彼が所属する京都鉄道研究会で知り合い、それ以降の付き合いとなる。谷本を大村に紹介したのも彼である。温厚でのんびりした性格は警部であることを忘れさせるが、それが相手を安心させ難事件を解決に持っていく手腕は見事である。
小田 信二(おだ しんじ)25歳
新宿にあるフォトハウスで働くフリーのカメラマン。今回は某雑誌社から「旅と鉄道・高知編」の依頼を受け、単身高知へ向かう。
太田 陽子(おおた ようこ)25歳
T銀行新宿支店に勤める自由気ままな独身OL 。今回は一人高知へ旅立っているが・・・。大村探偵に依頼をした謎多き人物でもある。
山岡 総一郎(やまおか そういちろう)48歳
新宿で宝石店を経営している。京都へは仕事で来ていたらしいが、東寺で殺害される。しかし、この男には色々とウラがありそう・・・。
これから先、どのような展開になっていくのでしょうか? 作者である私にも全く展開が読めません・・・。(なんでやねん!)