Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」13

 「ダメです、警部。 繋がりません・・・。」
 日が傾いた夕方6時過ぎ、刑事(デカ)部屋で小上刑事が呟いた。木村はイスをクルリと回転させ、西日が当たる窓に目を向けた。ブラインドを閉めていても西日が入ってくるらしく、木村のデスクはかなり暑い。だが、夏生まれの彼にとってはさほど気にする程ではないらしい。50を目前にして、まだ体力的に若手に負けるつもりは更々ない風貌だ。おっとりした顔つきとはうって変わって、引き締まった肉体はどこかのスポーツ選手と見間違えそうだ。
 「そうか・・・。」
 彼は一言、そう呟いた。
 「もう、夕方ですよ。 何で、携帯が繋がらないんでしょうね?」
 電話を切った小上が言う。
 「何回、掛けた?」
 「朝から数えて7回目です。 1時間おきに掛けてますから・・・。」
 「何処かに、電話ですか? 警部。」
 フイに入り口から男の声がした。木村が振り返ると、谷本がそこに立っていた。
 「谷本君! 君を捜していたんだよ! 一体、何処に行ってたんだ。 携帯も繋がらないし・・・。」
 木村は谷本の元へ駆け寄る。彼は少し驚いた様子で、
 「チョット、神戸に・・・。 所で、携帯って?」
 「朝からずっとコールしていたんだが・・・。 何回掛けても留守電に切り替わるんだ。留守電も聞かなかったのか?」
 木村に言われ、彼はウエストポーチから携帯を取り出した。
 「あっ、マナーモードになってる・・・。  警部、1時間おきに掛けてたんですね。
  スイマセンでした・・・。全然、気が付かなかった・・・。」
 「頼むよ、ホントに!」
 「あっ、先生からも入ってる・・・。 チョット待って下さい・・・。」
 谷本は大村からの留守番電話を聞いた。
 「ホント、スイマセンでした!  で、何か重要な手がかりでもあったんですか?」
 携帯をウエストポーチに片づけながら、彼は聞いた。
 「ああ。 司法解剖の結果が出たんで、君に言っておこうと思ってね。 害者はどうやら遅効性の青酸性毒物を饅頭と一緒に飲まされたらしい。 胃の中に饅頭が残っていたそうだ。恐らく、饅頭の中にカプセルでも仕込まれてたかされたんだろう。」
 「遅効性の青酸性毒物ですか・・・。」
 「それと、どうやら害者は薬物をやっていたらしい。毛髪から薬物反応が検出された。」
 「やっぱり・・・。」
 谷本は腕を組んで呟いた。それを、木村が見逃す筈がない。
 「やっぱりって、どういう事かね。」
 彼はため息を一つ吐いて答えた。
 「実は今日、害者の行動を調べに神戸に行って来たんです。」
 「ちょっと待て。 何で、害者が神戸に行った事が分かったんだ? 我々も知らない事実だぞ!」
 再びイスに座り直した木村が慌てて立ち上がって言った。
 「まあ、調査上の秘密って事で・・・。」
 「谷本君! 私が依頼したんだ。 秘密も何もない! 話たまえ!」
 木村は声を荒げて言った。彼にしては珍しい行動だったらしい。周りにいた部下が一斉にこちらを見る。
 「・・・・・。 分かりました。」
 谷本は今日、事務所に来てからこの部屋に入るまでの経緯を話した。
 「なるほど・・・。 大村さんは、すでにこの事件(ヤマ)を調べてたのか・・・。
 谷本君、依頼主は男だったか、女だったか、どっちか分かるかね?」
 「依頼人は女性でした。 名前は太田 陽子 25歳。T銀行の新宿支店に勤めているそうです。」
 彼は手帳を見ながら答えた。
 「おい。」
 「分かりました。」
 木村が部下に命じると、彼は電話を掛けた。
 「君の撮った写真を見せてくれんかね?」
 「良いですよ。」
 木村は谷本からカメラを受け取った。そして画像を一つ一つ確認していく。
 「ん、ここは?」
 「それが、先程話した神戸フェリーです。」
 「それと、その倉庫か・・・。」
 昼頃にポートタワーから撮影した写真には埠頭に並ぶ倉庫が映し出されていた。
 「ファイルに挟んであった写真は、恐らく地上から撮影したんだと思います。写りが悪いのは、携帯からの撮影かと・・・。」

 

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