Nicotto Town


フリージア


瞳の中の少女…2

 「おはよう」
 「おはよう」

 今日も我が真田家の朝がやってきた。
 僕の父幸三は、新聞を読みながら僕の方を見ずに挨拶する。やがて母が運んできた朝食を黙々と食べていた。
 食卓の中央には綺麗な桜色のコスモス。少し遅咲きのコスモスだが、母は花が好きでいつも食卓には季節の花を飾る。季節が変わるたびに、僕は素敵な気分になる。
 そんな情緒には全く鈍感な父は、食事をしている時こそ寡黙だ。でも今日は珍しく食べている間にも話しかけてきた。僕は少し驚いた。
 「俊一、今日でテスト期間も終わりなんじゃないのか?」
 「そうだよ」
 「今度こそ仙道君を抜いて、学年ナンバーワンに成れるんだろうな。二年生になってからというもの、いつも二番じゃないか」
 父の学生の頃はそうとう優秀だったらしい。
 僕は僕のために運ばれた朝食を食べる前に、素早く答える。
 「なんとかするよ」

 僕はそう父に言ったが、仙道君を抜いて学年トップに成る事なんてまるで自信がなかった。いや、学年トップのこだわりはすでに薄れている。
 仙道君というのは県外の高校から二年生になったと同時に転校してきた。彼が来てからというもの一年生の全てのテストで学年トップだった僕は、その座を明け渡すかたちとなった。
 父は学業のことは何も心配していない様子だったが、その事でこのところ少し口を挟むようになっていた。口を挟まれることについて、苛つきなどはなかった。それより、ただでさえ無口な父との会話が増えたようで、妙に嬉し気持ちになっていた。
 母というと、一番であろうが二番であろうがトップクラスには変わりない、そういう考えの人だ。もっぱら今どきの高校生が過ごす私生活の方に心配が移っているらしい。それに今この街を騒がしている事件のせいだろう、二年生になってからやたら口うるさくなっていた。




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