春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」12
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/04 23:27:15
「と、まあファイルに書いてあった事はこんなもんや。」
「でも、大村さんなら、その殺された山岡って男の所在は突き止めていた訳やろ?」
春田はアイスコーヒーをブラックで飲みながら聞いた。
「多分な。 昨日、俺が木村警部から依頼された事を先生に伝えたら、顔色がサッと変わったからな。 所在地はおろか、何かしら知ってたんやと思ってる。だから今朝一番に高知へ飛んだと思うんやわ。」
「で、残されたのがこの港の写真と電話番号だった訳か・・・。」
赤岩は少量残ったアイスコーヒーを、ストローで意味もなくかき混ぜながら言った。
「番号は、この近くにある『神戸フェリー』って会社の物やった。 で、写真なんやけど・・・。」
谷本は一端ここで話を区切った。どうやら話をしようか迷っているようだ。が、意を決した様に喋りだした。
「もう一つ、ファイルに残されてる物があってな。 それはここには持ってきてないねんけど・・・。厳重に密閉された袋に、少量の粉状の物体が入ってたんやわ。」
すでに氷だけになったグラスをストローでかき混ぜながら、ゆっくりと話す。
「俺の予想では、恐らく麻薬やと・・・。 多分、依頼主が証拠物件として持ってきたんやと思う・・・。 何せ、ひとつまみ程度しか無かったからな・・・。」
場に重い空気が流れる。数刻の内、赤岩が口を開く。
「密輸か・・・。」
「多分。 殺された山岡は、それに関係する仕事を請け負っていたと推測した俺は、ここに調べに来た訳や。」
「それに神戸フェリーが一枚噛んでいる・・・。」
春田は静かに言った。
「あるいは山岡が働いていたか・・・。 どっちにしろ、何かに関与してる事は事実やろな。」
「って事は、その山岡って男は、口封じの為に殺されたって言うんかいな?」
赤岩は大きく伸びをして聞いた。
「多分・・・。 そう考えるのが妥当やろね。」
「でも、待ってや。 ニュースではそんな事、一言も言ってなかったやんか。」
「そりゃ、そうやろ。 多分、警察もまだ知らん情報やから。 まあ今頃、司法解剖の結果が出てる頃やから、麻薬の常習者やったら何かしら反応がある筈やけどな。」
「なるほど・・・。 確かに、こんな話は極秘中の極秘やわな・・・。」
春田は腕を組みながら言った。
「って事で。お二人さんには悪いけど、これからも宜しく頼むわ!」
谷本は得意げに二人に言った。二人は唖然と彼を見ている。
「二人を信用して正直に依頼内容を喋ったんや。 それなりの仕事はして貰わんとね。」
「をいをい、お前が勝手に喋ったんやろが!」
「でも、内容を聞いてもうたんやろ? まあ、仕事って言っても大した事やない。お前らホテルマンの力を借りたいねん。山岡が滞在してたホテルを見つけて欲しいだけや。」
「・・・。 一体、京都にどれだけのホテルがあると思ってるねん!」
「何、大したことないやん。山岡は宝石店の経営者だった訳やろ? 恐らく、そこそこの部屋に宿泊してたと思う。しかも、京都郊外のホテルに。もし、密輸関係の仕事をしてたなら、取引をするのに一般の部屋とか市内のホテルに宿泊するにゃ使いにくいやろ? ココが密輸の現場なら、恐らく大津か亀岡か、その当たりの高級ホテルに滞在してたんやと思ってるんやけどね。」
「お前は調べへんのかいな?」
春田が眉間にシワを寄せて聞いた。谷本は笑って答える。
「調べるよ、別の一件をね。 俺は、俺で大変なんやから。山岡の本職である宝石店の関係を当たってみるつもりや。アリバイ工作の為にコッチの仕事もこなしてたと思うからな。ホテルマンの顔ぎきの広さに期待してるで。」
「こっちも本職の仕事を抱えてるしな。 期待は出来ひんで!」
「ああ、分かってる。 何か分かったら、ココに連絡して。」
谷本は名刺を渡した。
「名刺まで作ってるんかいな。」
「パソコンで作ったんやわ。 最近、名刺ソフトが出たんやけど、ソレ使ってん。」
谷本は自慢げに話す。
「じゃ、俺は仕事があるから行くわ。 ああ、それと。 この件はくれぐれも内密にお願いね。 例の話は、あくまで俺の仮定やからな。」
谷本は支払いを済ませ喫茶店を出た。
「お前のツレ、変わってるんやな・・・。」
赤岩は呆然としながら谷本の背中を見送っていた。 春田は苦笑しながら手帳に殺害された男の名前を書き込んだ。





























所で、探偵の「谷本」の言葉に『標準語』と『関西(京都)弁』が混じってます。これは彼のごく親しい友人に話す言葉は『関西弁』、それ以外の人物は『標準語』と言う風にワザと分けています。多少、読みにくい所があるかもしれませんが、分かりにくい文面では( )で標準語の説明を入れてますので、ご了承下さい。