Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」10

 同日、午前10時。谷本は事務所のデスクの上に封書が置いてあるのを見つけた。いつもながらギリギリの時間に事務所に入る彼は、今日もギリギリの時間で滑り込んでいた。普通なら、ここで大村の怒鳴り声が聞こえてくるのだが、今日はやけに静かだった。
 「あれ、先生いないんだ。ラッキー!」
 そう言いながら、封書を開封した。それは大村が谷本に宛てた物だった。
 『谷本君。 君が来る頃には私はいないだろう。君の事だから、今日も指定した時間ギリギリに事務所へ来たんだろうな。 私は大阪空港発7時10分の飛行機で高知へ飛ぶ。君はファイル№1364を見て、その調査を続行してくれ。また携帯に連絡する。』
 谷本はすぐさま大村の本棚に行き、ファイルを取り出した。この棚には大村の許可がなければ取り出せない、重要ファイルが収められている。
 「ええっと、何なに・・・。 <7月15日の10時頃 A商業施設の喫茶店で依頼人と会う。彼女の名前は『太田 陽子』25歳。依頼内容は、東京の新宿で宝石店を経営している『山岡 総一郎』(48)の仕事を調べる事!> 先生は殺された害者の事を調べてたんだ!」
 彼は上を向いて、驚きの声を挙げた。
 「でも、待てよ。 殺害された害者の仕事は新宿で宝石店経営と書いてある。なのに、何で仕事を調べる必要があるんだ? 訳わからんわ・・・。」
 ため息を一つ吐いて、ファイルをめくっていく。
 「ん。 何だ、コレは?」
 ファイルの間に一枚の紙切れと夜景の写真。それに粉が入った小さなジッパー袋が挟んであった。袋は厳重に密閉してある。
 「写真だ。 港みたいだな。貨物船が止まってるが、暗くて良く分からない・・・。  こっちは電話番号か。」
 谷本は事務所の電話からその番号へ掛けてみた。
 「はい、神戸フェリー株式会社です。  もしもし・・・。」
 彼は慌てて電話を切った。
 「神戸フェリー? じゃ、写真の港は神戸港か・・・。とすると、こっちの袋は一体?」
 彼は袋を開けてみようとした。しかし厳重に密閉されているので開封する事が出来ない。仕方がないので形状だけでも観察してみた。
 「粒子は細かい。 しかも、軽そうだ。手触りは小麦粉みたいな感覚だな。でも、少しザラザラしてる・・・。 何かの結晶体かな? しかし、やけに少ないな。」
 重さにして2gもないだろう。ホンのひとつまみ程度の量だ。
 「これ程厳重に封印してあるって事は・・・。 もしかして、アレか?」
  谷本は大きく伸びをして、少し考えたあげく、一つの結論を出した。
 「まずはここへ行ってみるか・・・。」
 彼はバッグに愛用の一眼レフカメラとファイルに挟んであった写真、それに探偵七つ道具を入れた。念のために電話番号は手帳に書き写し、事務所を後にした。

 彼が神戸駅に到着したのは、それから一時間が経過した11時半を回った頃だった。観光案内所で神戸フェリーの場所を聞くと、ここから近いことが判明した。早速徒歩で神戸フェリーへ向かう。
 頭上を阪神高速道路の3号神戸線が走っている。程なくして、街のシンボルであるポートタワーが見えてきた。どうやら神戸フェリーはここにあるらしい。神戸フェリーの場所を確認し、写真を数枚撮ってからポートタワーに登ってみた。写真に写っている倉庫街を探すためだ。
 ポートタワーは高さ108mの展望用タワーで、1963年に建築された神戸を代表する観光スポットである。上階に備えてある双眼鏡で神戸の海岸通りを隈無く探していくと、写真と似たような倉庫群あるのを東の方向に見つけた。どうやらそこはポートアイランド内にある国際コンテナターミナルの一角らしい。大型の貨物船が数隻停泊している。

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