春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」6
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/01 23:13:46
同日、16時過ぎ。
高知とはうって変わって、京都市にある府警捜査一課の一室ではバタバタと人が飛び交っていた。三時間程前、南区にある東寺で死体が発見されたのだ。
「警部、仏さんの身元が判明したそうです。山岡 総一郎、東京、新宿で宝石店を経営しているとのことです。」
先程まで電話をしていた刑事が男に報告した。
「新宿か。すぐに警視庁に協力要請を取って、男の身辺を調べるように伝えてくれ。」
デスクで事件調書を作成していたむさ苦しい男。捜査一課の警部である木村は、伸びをしながら気怠そうに部下に命令した。
「分かりました。 あれ、どこかへお出かけですか?」
「今日は例のやつでね、あとは宜しく頼むよ。 そうそう、害者の死亡推定時刻が分かったら、すぐに連絡してよ。」
「あっ、警部ー。」
あっけに取られている部下を後目に木村は部屋を出ていった。
国立京都国際会館。左京区にある国際会館だ。夕闇迫る17時半、木村はそこにいた。今日ここで、鉄道研究会の定期発表会が行われる。彼はこの会の会員で、支部長でもあったのだ。
「あっ、警部。いらっしゃい。」
紺色のスーツ姿の青年が木村に声を掛けた。年齢は二十歳前後だろうか?
「よう、谷本君。元気そうだね。」
彼は右手を挙げ、青年の挨拶に答えた。
「警部こそお元気そうで何よりです。所で、仕事の方は大丈夫ですか? 確かさっき、ニュースで殺人事件が起きたことを伝えてましたけど。」
谷本と呼ばれる青年は心配そうに声を掛けた。
「ああ。実はその事で、君に少し頼みたいことがあるんだ。後でちょっといいかな?」
「三十分位なら構わないですよ。今日の事は先生に言っておきましたから。」
「そうか。 ん、そろそろ始まるな。 中に入ろう。」
木村は腕時計を見ながらそう言って、二人は会館へ入っていった。一時間程の発表会も終わり、二人が外に出た時にはすでに19時を回っていた。
「で、警部。頼みとは一体、何でしょうか。」
水を飲みながら谷本が聞いた。熱帯夜で気温が三十度を超えているせいもあってか、彼はグラスの水を一気に飲み干した。
「実は探偵見習いの君に、調べて欲しい事があるんだ。」
「何でしょうか?」
彼は身を乗り出して聞いた。手には手帳を持っている。探偵は聞き込みが捜査の命と言う事を先生から聞いていたからだ。
「先程電話を掛けたら、害者の死亡推定時刻が13時前後で、死因が青酸性毒物による窒息死という事が分かったんだ。」
「青酸性毒物ですか。」
「そうだ。で、害者の京都での行動を君に調べて貰いたいんだ。必要な情報は後で事務所の方にファックスする。」
木村は一端ここで区切った。丁度ウエイトレスが料理を運んで来たからだ。
「警察の固まった視点じゃなく、一般人の君に頼んだ方が違った視線で物事を見られるからなんだが。 いいかね?」
「いいですよ。二年程前に警部に出会ったのも縁ですし、先生に紹介してくれたのも警部でしたから。 ただ、経費の方は・・・・。」
「それは心配しなくてもいい。毎度の事だからね、大村探偵事務所に依頼するのは。おやっさんも了解済みだよ。」
「了解済みって。 じゃ、今まで何回か先生に依頼されてるんですか?」
「まあ、持ちつ持たれつって事だな。おやっさんの依頼を受けたこともあるし。」
「そんな関係だったんですか? 警部と先生って。」
「意外そうな顔をしてるな。まあ、おやっさんが一課の警部だった頃、俺はまだ駆け出しの刑事(デカ)だったからな。もう二十年位前の話だが。丁度、君と同じ位の年齢だったかな。」
「じゃあ、四十ですか?」
「いや、四十六だ。デカになる前は交番勤務だったからな。」
「じゃあ、先生とは長い付き合いなんですね。」
「ああ、俺のデカ師匠だよ。」
「師匠ですか・・・・。」
「そうだ。」
その時、木村の携帯電話が鳴った。
「はい、私だ。うん、分かった、今から帰るよ。」
携帯を切った彼は、溜息をついて言った。
「害者の家族が到着したから、早く帰ってこいってさ。全く、飯ぐらいゆっくりと食わせて欲しいもんだよな。」
「家族ですか。」
「ああ、俺の一番嫌な仕事だよ。仏さんと家族を引き合わせる作業っていうのが・・・。さて、ここの支払いは俺が済ませて置くから、君は例の件を頼んでおいてくれよ。」
そう言うと木村は料理を半分以上残したままレストランを去っていった。





























自分も小説家を目指しているので、
「自作小説」という言葉につい反応してしまいました^^
それで読んでみたのですが、
面白くて、一気にここまで読んでしまいました^o^
専門外のミステリーということで
楽しませてもらいました✿
続きを楽しみにしています♪
あと、もし暇でしたら
私の小説も読んでみてくださいm(._.)m