Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」2


 第1章    悲しみの高知


 「7月21日、火曜日、午前6時54分。私は、寝台特急瀬戸の車内にいる。定刻通りに児島を発車。これより瀬戸大橋を渡り四国に入る。本日の予定は・・・・・。」
 小田がテープレコーダーに取材記録を吹き込んでいると車内放送が流れた。本日最初の放送だ。坂出と終点である高松の到着時刻を告げたあと放送は終了した。
 「ええっと、朝飯を取る時間を考えると・・・・。うん、8時56分に坂出を出る『しまんと3号』がいいな。」
 吹き込みが終わり、時刻表を見ていた小田は呟いた。

 列車は定刻通りに坂出に到着した。小田は荷物を持ち、一度外に出て近くの喫茶店に入った。注文したモーニングセットが来る間、写真のポイントを探そうとガイドブックを見ていたその時、女性に声を掛けられた。
 「あのう。ここ、空いていますか?」
 「ああ、空いているよ。」
 小田は愛想のない返事をした。女性は赤い帽子を取ってイスに座りアイスコーヒーを注文した。
 彼は女性を観察してみた。ロングヘアーで少し白っぽい肌をしている。身長は155㎝位か、年齢は25歳前後と判断した。髪の毛をかきあげる仕草が妙に色っぽい。だがまてよ。ガラガラの喫茶店で何故、俺の対面に座って来るんだ?
 「あの、何処へ行かれるんでしょうか?」
 突然、女性が遠慮しながら小田に問いかけてきたので、彼はハッとして彼女を見た。その姿にビックリしたのか、女性は恥ずかしそうに俯いた。
 「えっ、あ、高知です。 仕事でして・・・・・。」
 小田は頭をかきながらそう答えた。
 「何のお仕事ですか?」
 また聞いてきた。が、今度は堂々としている。
 「カメラマンです。主に風景写真を撮ったりしています。ほら、足下に・・・・。」
 彼は足下に置いてあったカメラケースを見せた。しかし、初対面なのに何で色々聞いてくるのだろうと思いながら、彼自身この会話を楽しんでいた。
 「いいですわね。でも、この時期って暑いでしょう。」
 「いえ、そうでもないですよ。ああ、これが名刺です。 どうぞ。」
 小田は名刺を女性に渡した。彼女は名刺を見てハンドバッグにしまい込んだ。
 「貴女は何の仕事を?」
 小田は思い切って問いかけてみた。興味本位ではあったが、色々とこの女性の事を知りたいと思ったからだ。
 「私ですか? 何に見えますか。」
 「そうですね、OLには見えないな。  うーん、体つきから見てエアロビのインストラクターとか・・・。」
 「うーん、半分正解かな。 ダイビングのインストラクターをやっているの。」
 彼女がそう言った瞬間、彼は直感的に違うと判断した。この季節のダイビングだったらもっと日焼けをしていても良い筈だ。じゃあ、何故ウソを? 一体、この女(ひと)は何者なんだ?
 「何処まで行くんですか?」
 「高知よ。そこに友達がいて、訪ねに行くの。」
 「高知ですか。いや、偶然ですね。」
 「本当ね。」
 小田は考えた末、さっきの考えを聞いてみることにした。
 「あのう。さっきダイビングのインストラクターをしていると言いましたよね。」
 「ええ、言ったわよ。」
 「それにしては肌の色が白いですね。今頃の季節だったら。んー、もう少し日焼けをしていても良いと思うんですが・・・・・。」
 思わず、昨晩まで読んでいた刑事コロンボの口調で話した小田はしまったと思った。女性は黙り込み俯いてしまったからだ。そして数秒後、小田が声を掛けるよりも早く彼女は立ち上がった。
 「あなた、刑事でしょう。私、刑事って大嫌いなの!  じゃあね!」
 女性は一目散にカウンターに行き支払いを済ませて出ていった。
 「何者なんだ・・・・、あの女性は・・・・・・。」

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