叶わぬ願いはもういらない…10
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/27 23:09:16
今日は前期試験最終日、夢では夏休みだったな。
大学に到着すると大勢の学生が試験に備えていた。講堂は、テストのため人がごった返している。僕はテストなど全くやる気が無かったために気分は上の空だった。皆、真剣で僕1人がこの世界の人間では無いように思えてくる。
テストが始まってもルミの顔が頭の中でちらつき、脱力感がぶり返す。
結局、全くできなかったテストを悔やみながら、昼飯を食いに学食へと向かう。足取りは悪かった。
学食への道を歩いていると、後ろから神田が近づいてきた。神田の姿は珍しくスーツに見を固めていた、それもリクルートスーツ。彼は4年生、就職活動のようだ。
夢で会う神田と実在の神田とは少し感じの違う。リーダー的なのは同じだが口調も紳士的でまじめな男だ。
「久し振りだな成二、テストは終わりか?」
「おー。全部終わった」
僕らは一緒に歩きだした、極ゆっくりと。同い年だが、学年の違う神田と話すのは久しぶりだった。
「成二はいいよ、まだ三年だから」
「嫌味かよ?」
「そうじゃないよ。俺たち4年は、もう就職活動の真っ最中だ、もう三社は落ちたよ・・・最悪だな」
神田は苦々しい顔で天を仰ぐ。それに続いて、僕も天を仰いだ。
「そうか、大変なんだな、まあ俺も気分は最悪なんだけどさ」
本当に最悪だった。テストの事もそうだが、もちろん虚しい夢の事が頭を支配する。
「テストのできが悪かったか?でもこれから夏休みって時期に最悪なわけ無いだろ」
「……」
「彼女がいないから面白くないのか?」
神田は痛いところを突いてくる。
「その顔を見ると図星だな。そんなに彼女がほしいなら、コンパでもしたらいいじゃないか。俺はこれから就職活動で忙しいから世話してやれないけれど、同期の奴らと一緒にさ」
それでも俺は声が出なかった。今日の夢は最悪すぎる、俺の願ったタイムスリップが無いものとなったのだから…
「もしかしたら・・・・野川ルミの事か?」
神田は正解だと断定して話し出した。
「もう忘れろよ…なんて言っても、おまえにとっちゃ難しい事だろうしな。そこまで思いつめているのなら、一度会ってみるのも手なんじゃないか?あっちには新しい彼氏がいるのかもしれないけど、それならそれでスッキリするかもしれない」
「…」
会ってみろとアドバイスを受けたのは、これが初めてだった。それでも僕にルミと会う考えは生まれなかった。
「悪い方にばっかり考えがちだけど、あっちが独り者なら、またチャンスが有るかもしれない」
「今更どんな顔して会えばいい?」
「…じゃあ、やっぱり忘れるんだな、違う女を見つけるしかない。冷たいようだけど俺は背中を押してやることしかできない、決断するのはおまえ自身だからな」
突っぱねた言い方で僕の気持ちを奮い立たせてくれるのだが、ルミの事に関してはそう簡単にいかなかった。
それでも、そうやってアドバイスしてくれる神田に対して有り難く思った。
「そうだな…わかったよ」
「あんまり思いつめるんじゃないぞ。俺急ぐから。じゃあ、またな」
「おお、就職活動がんばれよ」
神田は軽々と足を上げながら、駐輪場へ走り出した。