Nicotto Town


人生カカト落とし


翼の帰る処3上

ひさびさの新刊、妹尾ゆふ子『翼の帰る処』3 歌われぬ約束 上(幻冬舎コミックス)を読んだ。
寡作ながらこれだけ外れなく面白い話を書く人なのに、このシリーズまで増刷がかかったことがなかったらしいのはどうしたものか。
この作者のノベライズならと、興味がなかったゲームのものだろうが、一話で視聴を切ったアニメのものだろうが、とりあえず購入し、でもって報われている(頁数不足でもったいないと感じたことはあったが)読者としては理不尽に感じる。
作品世界も繋がっていることだし、手許にない白泉社刊の本(つまりそれ以外の話は一応全部手許にある)を復刊してくれないかな~、と思うことしきりだったりする。

一応ライトノベル系のレーベルでは珍しい三十代後半の病弱・隠居希望の主人公ヤエトは相変わらず多難だ。
今回、物語が始まる前からすでに昏倒して(またまた)生死の境をさまよっているし、皇女(年頃だしね)にも、前作で貴族に列せられた主人公自身にも、政治的思惑込みの縁談話が出ていて、なんとも気が重い状況である。
望まぬ地位や権威を押しつけられて、希望する平穏と隠居からますます遠ざかりつつあるのが気の毒でしようがない。

放置されていた黒狼公の領地も切りまわさねばならない(なにせ領民がいる)。配下には素性を表沙汰に出来ない、守ってやらねばならない者がいる。相である北嶺国の内政と、その外敵との対応。帝の後継争いの暗闘のなかで皇女を守ること。超常の力が増していることから考えて魔界の蓋は開きかかっている、そのうち、穏やかならざる事態が起こる。
『知るか、ボケ』ではすまないわな~w

今回騎士団長(ってか北嶺国の将)ルーギンと、鬼神の強さ(文字通りw)の素敵じいさまジェイサルドの出番がすくなかったのがちょっと淋しかった。
ヤエトがシロバの雛たちに義兄と懐かれて、鳥バカ化進行中なのはなごみどころだろうか。ああ、あの雛を膝に乗せてモフりたいw

心中の述懐からすると、ヤエトは状況判断の面では辛辣で容赦のない現実主義者だ。
であるのに、他者を守るために『無駄に勇敢』に対処せずにいられないが為に大変な思いをすることになる。
損な性分だが、内心で愚痴りつつも日々奮闘するからこそ、周囲に信頼される。
本人に言わせれば『偏屈』、だが魅力的だ。
傍目に見るなら、何度も死にかかるくらい病弱ではあるものの、政敵相手に陰険漫才ができるくらい有能で、それら政争にうんざりするまっとうな心性で弱者を犠牲にすまいと力を尽くす、尊敬に足る人物だろう。
本人は「そんな立派なものじゃない」と認めないだろうけど。

北方から人質交換の提案が国にあり、付き添いの特使として乗り込んでえらい状況になったところで次巻への引きだったりする。
今回は二ヶ月連続刊行じゃないし、これはあんまりなクリフハンガーだ。
ヤエトは助力を頼んだ相手を見殺しにはできないだろうし、この場の危地を脱することができたとしても、恩寵持ちであることが皇帝に明確になる(というか、これは確信されてるよね。どのあたりでバレたんだろう?)。
どう転んでも危機だが、約束なのだ、生き延びねばなるまい。

超常の力も、政治むきのかけひきや暗闘もと盛りだくさんで読み応えがある。
剣がひらめくアクションもあるけど、これは主人公が病弱でその同僚が主に担当しているのでややあっさりめ。
エンタテインメント系のファンタジィを読む人にはお勧めのシリーズだろう。

切羽詰まった事態のなか、ヤエトがどう選択し、事態をどう動かすか。下巻が待ち遠しい……が、年内にでるかなぁ~w




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