叶わぬ願いはもういらない…5
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/21 16:22:22
大学前の通りにあるバス停で待つことにし、そこへ移動する。バス停のベンチに座り車道に目をやり、左右どちらからくるか確認する。
少し焦りにも似た高揚感が胸を打つ、早く車が来ないかと待ちわびながら。
程なくして神田が車に乗って現れる。バス停とは反対車線なので神田は車の窓ガラスを開けてその場所から叫ぶ。距離は5メートルほど離れているが、耳元で叫んでいる様によく聞こえた。
「成二!ほら、行くぞ!もう試合始まったんだからな」
「おお」
僕は車道を渡って神田の車に乗り、球場に向かう。神田は俺が今日のことを忘れていたことも咎めず、車のスピードを少し上げた。
今タイムスリップのことを話すか…
神田に僕が意識だけ未来からタイムスリップしてきた事を告げようとも思ったが、彼はそのような超常現象は信じない方だ。話しても今の球場へ向かう気持ちが逸っている状態じゃ怒り出すくらいだろう。
僕は車の中でずっと無言でいた。
神田はラジオに集中していた。
実況アナウンサーと解説者がなにやら楽しそうな放送をしている。
『1回の表、0ー0豊島高校の攻撃、ノーアウト、ランナー二塁でバッターは二番城田君。三野高校ピッチャー清川君、今日初めてのピンチです。解説の内村さん、ここはセオリーどおりに送りバントですかね?』
『セオリーならそうなんですが、ここまでの予選数試合を見ると城田君は4割近くの打率を残していますから、強行でもおもしろいのでは・・・・』
実況は解説の話を遮った。
『おっと、送りバント成功です、ワンアウト、ランナーは三塁に。内村さんの予想ははずれましたね』
『いやーこれは参りましたな、もう予想はよそう。なんちゃって、はっはっは』
『・・・・ほんとですよ』
「おいおい、初回からうちの高校アブねーじゃねーか」
僕はこの試合の結果を憶えている。8ー2で僕らの高校は負ける。それでも勝つと信じている神田はラジオに向かって吠えていた。
確かあの時も、こうやって神田の車に乗せてもらって球場に向かっていた。こうやってラジオを聴きながら。
「おさえろよ」
『打ったー、三番川俣君センター前ヒット!豊島高校1点先制』
『先ほどは間違えましたが、まだワンアウトですから今度は確実に送りバントで・・・・』
『強行!!四番島本君、左中間を抜くツーベースヒット!ワンアウト二、三塁です。内村さん、またはずれましたか?』
『いやー、ちょっと涙が出てきましたな。ははは』
「おい、やばいぞ」
神田は本当に悔しがっていた。
ここで俺の知っている過去とは少し違うことに気がつく。あの時も確かに試合開始には遅れて球場に到着した。それでも3回裏には到着していた。
しかし、ラジオ放送はもう3回の裏に入っている。そして車は渋滞につかまった。
間に合うのか?この試合の展開はかなり速いぞ。神田は大丈夫だと言う。まあ、それはそれでいいんだが、自分の知っている過去と違うのが問題だった。
でも、ルミに逢えるという高揚感が、気にせず球場へと向かうことに集中させた。
これからどうなりますかね^^
あまり言えないから辛いですね、お楽しみに^^
少しずつ記憶と食い違っていく事実が気になりますが。
ルミちゃんとの再会が楽しみです。