叶わぬ願いはもういらない…2
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/19 20:37:03
「ルミ・・・・」
僕は、思わず立ち上がった。その驚いた顔を見た彼女はクスッと笑う。可愛らしい笑顔で呆然としている僕を見つめた。僕は辺りをきょろきょろと見回し、ルミはその不思議な感覚を楽しんでいるかのように微笑んだ。
もう一度声を出そうと思ったその瞬間だった。
その瞬間、僕の画面が黒くなる。僕は目が覚めた。
「・・・また同じ夢か・・・・」
僕は、今までに彼女の夢を何度も見ていた。野川ルミという1年前に別れた元彼女の夢だ。
彼女の夢を見て目が覚めると、決まって頭を抱えるほど辛く切ない気持ちになる。そして目が覚めた時のあの虚しい気持ちの気怠さは、何よりも耐え難い。
夢の中での彼女は、驚くほど鮮明で綺麗なんだ。何度見てもこれが夢の中だとは気が付かない。そして夢から現実へと引き戻されるスピードは速く、そのスピードが速ければ速いほど、落胆の度合いは比例していった。
そんな朝は溜息しか出ない。
起きて軽く背伸びをし、ふらつきながら部屋を出る。今は夏だ、先ず感じる事は『暑い』もうそれだけ。それで夢の事を紛らわせる。
ふらつく足をやっとこ前に出し、1階へと下る階段まできた。ほんの数メートルの動きなのにドット汗をかく。
「成二?今起きたの?」
まだ夢の中にいるのか?僕は不思議な声を聞いた。それは聞き覚えのある声で、一年前まで毎日聞いていた声だ。
階段を下りる一歩目の足を止め、自分が寝ぼけているのかを確かめる。いや寝ぼけてはいない、しかし誰も使っていないはずの姉の部屋から声が聞こえる。姉は、仕事に行く支度をして部屋から出てきた。
「成二、寝ぼけているなら気をつけて下りるのよ」
目の前にいたのは、1年前に他県へと嫁いでいった姉だ。いつの間に戻ってきたんだ。
「姉さん?いつ帰ってきたの?お義兄さんは?」
「何言ってるの?変な子ね」
「1年前に結婚したお義兄さんは?」
姉は不可解な顔をする。
「何言ってんの、彼とはまだ結婚なんてしてないわよ。夢でもみてんじゃない?じゃ行って来るわね」
どうなっているんだ?僕のことをからかっているのか?でも姉はそんなことするような人ではない。
「何処に行くの?」
「決ってんじゃない仕事よ」