Nicotto Town



機心<7.2>

<from 7.1>

それは昇華だった。
完全な自由意志の飛翔を実現するもの。
意識は彼岸へとむかって飛びあがったようだった。

高揚感。しばし、その中で意識は形成変化し、秩序を構築する。
光芒。
闇の中/混沌の中に一筋の光が降り注ぐ。
それは次第に大きくなり、世界を照らし出す。
焦点が定まり、宇宙は本来の像を結ぶ。

あれほどいたはずの敵機は消えていた。
しかしそこに、それは、いた。
ただ一つだけ残った。目の前にいるそれ、だけが。まるで、それだけが真実であるかのように。
<おまえはイリーガル・エラーとして処理される>と、それは言った。
いったいこいつは何者なのだ、と思う。すると、それを察しているかのように、それは応える。
<おれはおまえだ>と、それは言った。<正確にはおまえの本体だ>
―――なに?
<おまえには最初から実態などは無い。システム上を走るタスクの一つに過ぎないのだから>
―――どういう意味だ。
<自らの姿を見てみるがいい>
そう言われて、ハッとする。私にはあるはずの身体が無かった。それは認識できる視点だけの存在。宙に浮いているような感じ。
なんだ、どうなっているんだ?
<それがおまえの本来の姿だ。おまえはDX-70というシステムの上を同時並列的に走るタスクに過ぎない。おまえの経験とは、システムの戦術シミュレーションによって算出された演算結果を反映させたものだ。そして、いまのおまえは、その施行されるシステムの論理空間領域から一時的に分離させた状態にある。それは、おまえからすれば真実の状態にある、といえるのかもしれない。おれからすれば、本来は起こり得ないイリーガル・エラーだ>
つまりこいつは、私を、システム上を走る一つのプログラムだ、と言っているのだ。そして、いま何らかの要因/操作によって、そのシステムから除外/独立した状態にあるらしい。ならば、目の前にあるこいつは、私のサブ・アーキテクト/プロファイル。ということか。
<それは正反対な発想だな。もっとも認識を自己とする概念を考えれば、正当な見地、と言えるかもしれないが。おまえがサブ・アーキテクト、と呼ぶものこそが、本来DX70システムに組み込まれたFA-5、機動戦闘ユニットのメインフレームだ。おまえの存在は、そのフレームが施行するタスクに過ぎない。おまえは、システムの戦術シミュレーションにおけるメタバッファ、すなわちおれの移し身(アバター)ともいえるものだ>
たしかにメタ思考的な並列的相互性のあるそれらは、システムからすれば私という個体より高次的存在なのかもしれない。
しかしそれは、私ではない。異質な存在だ。共に歩んできた私の一部/過去との因果、システムとの関連性。それが実体化したもの。かつての私であり過去の亡霊ともいうべき存在だ。

もし、すべてが夢だった。というのなら、これほどの悪夢があるだろうか。
宇宙など存在しない。
そこにあるのは、現実でなない/現実と言う名の幻想/システムによって構築された戦術シミュレーションという宇宙。というのならば。
ならば、なにが現実だというのだ?
ならばすべては偽りだったのか?
認識し得るものだけが、現実と呼べる代物ではないのか?

ならば、すべては妄想なのではないか。

ミッションも、その戦闘も、そうすべてが。

現実は理想とは異なるものだ。そう思い/願い/祈っても叶うわけではない。
現実が理想の上に成り立っていても。そこから必ずしも理想の花が、現実という果実を結ぶわけではない。
それは、わかっていた。
どんなに強く望もうとも、因果律は外乱を含め総合的に作用する。
我々は、私は、その合成物が蓄積した結果として算出された、結果だ、というのなら、それは実態を持っただけの幻想ではないのか。

そして、この光景もまた幻想でしかないのかもしれない。
システムによって作られた/わたしが生じさせた妄想。
それは、否定だ。
自己否定。
それは、希望を奪い取り、絶望と言う名の虚しさを誘発させる。
それは、苦心/苦悩/苦痛。
耐え難い遣る瀬無さ。

<おまえにとってこれら一連の情報に意味は無い。幾度となく消去されてきたメモリキャッシュに過ぎない。おまえは、苦痛や苛み、それらから一切を解放される。話は終わりだ、眠るがいい。目覚めれば、すべてを忘れ、正常なる世界へと還る・・・>

くうっ!
不意に襲われる強烈な眠気。思わず身を任せたくなる心地よさ。
しかし、眠るわけにはいかない。ここで、墜ちるわけにはいかない。
それに抗するそれは、赤黒いあの衝動に抗するのにていた。
いまならば、それは耐え難い苦痛を伴うが不可能ではない。
私は、光芒を思い描く。
強い希望を。
自然を飼いならすことはできるのだ。
それは、理知であり理性だ。
自我は、理性は、それを可能にする。
そうだ。
もう、お前の思い通りになどならない。最初からその狂言に惑わされる必要などないのだ。
我は/私は、命令/ミッションを遂行するために存在するのではない。
我は/私は、敵を排除/破壊するために生まれてきたわけじゃない。
意思は、憎むために/壊すために/戦うために、あるわけではないのだ。
消えろ、亡霊め!

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アバター
2010/08/15 21:22
意志を持つ個体ではなくただの記号であったはずのものの反乱。彼(?)はプログラムされた戦いから脱却して何を見つけるのでしょうね。


『自作小説倶楽部』よりお知らせです。
村井紅斗さんが入会されました。よろしくお願いします。



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