機心<7.1>
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/10 21:57:17
7
Rebooting…
外部情報を再構成/バックアップメモリリロード/現状の把握/システムを再構築。
センサ及び各系統が優先順に再起動/復旧させる。闇に光線が走り、現実という名の像を結ぶ。
気が付けば、私は飛んでいた。
バックアップメモリの参照によれば戦闘状態にある。
そして、戦術記録のタイムラインに突然の空白がある。
何が起こったのか?
意識喪失(ブラックアウト)の可能性は幾つか考えられるが、ミッション時に可能性が高いのは二つ。被弾による著しいダメージもしくは、制御系に何らかのトラブルが生じ、リセットアップが施行された。もしくはフレームシステムが外的要因によってフリーズしたか、だ。
復旧時にフレームセクタの走査が平行施行されているはずだが、問題個所のレポートはなかった。異常なし、だ。したがって後者の可能性が推察される。
すなわち、恒星天体のフレア現象に匹敵するEMP兵器の照射を受けた可能性、だ。
しかし、周囲に敵の気配はなかった。また、そのような攻撃の痕跡も感じられない。
そして、ブラックアウト以前の記憶を参照すると、違和感が混じるような気がする。
―――覚えているかそれを?
何かが、断片的に、囁きかける。
どこか聞き覚えのある、声。
―――なんだ?
ミッションは?/敵とは?
記憶が混同している様な、断片的な不鮮明な記憶=違和感。
なんなんだ! と、思考を振り払おうとしたとき、マザーより通達が届く。
指令>敵の増援により我が方は甚大なる被害を被った。残存する友軍機と合流し、態勢の立て直しを図れ、防衛ラインを再構築せよ。
友軍の広域通信チャンネルから聴こえてくる。割り当てられたポイントへと向かうように指示される。
リングファイアネットから情報を検索。索敵レンジを広域モードへ。
どこからともなく無数の敵影が出現する。
策敵範囲が広がるにつれその数は増大。敵は、一帯にわたって緻密な防衛網を構築する形で我が方の陣営と一線を隔す様に展開している。
それは巨大な壁だ。絶壁あるいは断層と呼ぶに相応しい。最大索敵範囲外にまで戦列が続いている。
そして私は、と言えば、その両者を隔てる狭間/谷の様な緩衝域を忽然と飛行していた。
残骸(デブリ)が多数漂泊している。戦闘が行われた跡の様だおそらく私が撃破した敵の残骸もあるだろう。
ミッション経過参照:
僚機と共に出撃。接敵/交戦。各自散開し戦闘を展開。私の撃墜数は3。
おそらく敵の斥候だろう。僚機の反応が消失していることを考慮すると、撃墜/もしくは何らかトラブルにより通信不能に陥った可能性もある。それは私が意識喪失した原因と関係があるかもしれない。
しかし、リアルタイム通信ができない戦闘展開状態では、状況の全体像を把握することは困難だ。現状把握のためにも指示されたポイントへと向かう。
ポイントに終結した戦力は予想以上に少なかった。
私を合わせて、機動戦闘ユニットが6。一個飛行小隊に過ぎない。
この程度の戦力が等間隔に複数展開し、防衛ラインを展開するのだ。
この戦闘に参加しているのはDX‐70システム群だけではないものの、戦線に残っているのはその程度の戦力で、残りは態勢を立て直すべく本陣の深部に集結している、という。
対する敵は航宙母艦数隻を擁する戦闘群。一個艦隊に相当する戦力。それが複数、壁の様に連なっている。これは、壁と言うより山だ。
敵戦線が総火力で攻勢をかければ、我が方の前線など津波に飲まれる砂上の楼閣でしかない。簡単に消し飛んでしまうだろう。
前線はとても打開策など望めはしない戦況。防衛ラインの再構築など無理だ。
マザーの意図は明白だった。今頃撤退を開始しつつ、残存主戦力の再結集を図っているのだろう。防衛ラインの再構築は辺縁系を防塁として、敵の侵攻速度を鈍らせるためのもの。つまりは、時間稼ぎの捨駒だ。
だが、しかし。そして私は戦列に加わる。砂上の楼閣の砂粒に。
<何をしている?>
それが思考の中を過ぎった。
<何ができる?>
そう問わずにはいられなかったのかもしれない。
ふと意識を向けた先に、私はその姿を見た。
見知った姿、FA-5。DX-70システムの機動戦闘ユニット。IFF反応では友軍機DX-70システムPod No.07。
「NO.07か」と、私。
「そうだ」と、FA-5、NO.07は応えた。「貴様も、か。No.13」
「そうだ」と、私が答えるとNO.07は言った。『そうか。ならば、その意義を果たせ。存在意義を』
「なに?」
それが皮肉だったのか、激励だったのか、それはわからない。
―――存在意義、だと?
私は―――。
それは、わかっていたはずだ。
しかし、なぜかそれが、遠くに感じられる。
<汝の存在意義は?>
それは私が私という存在として存在し、在り続けること、だ。
思考の奥底で何かが閃いた。
途端に、それは思考の中へと迸った。
その迸る光芒こそ、私の理性と言う名の本質なのかもしれない。
アーキテクトの奥底に封じ込められていたそれは、超新星となって思考の中へ展開した。
<Go to 7.2>
それは俗に思い出と呼ばれるものなのでしょうか。それとも単なるバグなのでしょうか。
【自作小説倶楽部】よりお知らせです。
渡瀬もちこさんが入会されました。よろしくお願いします。