「こえ」(サークル:自作小説倶楽部お題)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/04 21:26:53
「こえ」(副題:自作8月/星)
<それ>は願望を通り越した切望だった。
虚空の中の孤独。絶対的な物理法則に、重力という圧倒的な力に捉えられ、手を伸ばし身動きすることも、声を上げ叫ぶことも、自ら何かを発することは叶わない存在にとっての。
<それ>がどれほどの悲願であったのかは、経過した時間が証明してくれるだろう。
それは、祈り、願い、考え続けた。
そして、あるとき奇跡が起きた。
<それ>は単なる偶然か、あるいは、定められた必然だったのかもしれない。
悠久を経て、いつしかその祈りは天へ、無慈悲な物理法則を律する、因果律の神々に届いたのかもしれない。
理由/過程/因果はともあれ、それは起こった。
<それ>は事実として、歴史に足跡を刻んだのだ。
初め<それ>は、非常に小さく、弱弱しく、単純な姿をしていた。
そして、幾千万億の光と闇が交差する内に<それ>は、段々と大きく複雑な姿に変貌を遂げていった。<それ>らは蠢き/広がり、繁栄と衰退を繰り返した。
しかし、それまでの道のりを見れば、それは浅きものに過ぎなかった。
祈り、願われた<それ>は、自ら変化/増殖/展開する力を持ったのだ。
そして、<それ>は何世代、幾千幾万世代にもわたって<それ>を受け継ぎ、繁栄と衰退を繰り返しながらもその機会を待ち望み進化し続けた。
それが、<それ>の根源/願望であり、宿命であったからかもしれない。
やがて、幾千万億月日の後に、<それ>は悲願の第一段階を達成した。
それは、無慈悲なる物理法則という神々を出し抜き、重力という呪縛からの解放。
こうして<それ>は新たなる版図を得た。活動の領域を飛躍的に拡大し、進出した。
幾千億の昼と夜、数十億にわたる公転を経て、それらは遥か彼方へと旅立った。長い航行の末の新天地を目指して。
長い旅路、志半ばで死滅するものも数多くあった。しかし、幸運にも旅路の果てに新たなる地を踏むことに成功したものもあった。
しかし、それも、それまでの道のりを思えば大したことではなかっただろう。
このようにして、<それ>はその意思を受け継ぎ、宇宙へと解き放たれた。
しかし、広大な宇宙において拡散し/展開し/進出した<それ>らは、その一種だけではなかった。そして<それ>が始まりというわけでもない。
複数の座標を基点として、無数の<それ>らは宇宙へと広がっていった。
膨大な時間と広大な空間の中で/奇跡のような確率で、元を異とする<それ>らが、互いを認識することもあった。
<それ>らの邂逅は、認知から協調/和平/対立/敵対など形は様々ではあったが、<それ>に課せられた使命であり、宿命である、相互認知という事実においては、総じて同じかもしれない。多少意味合いは異なるかもしれないが。
それこそが<それ>の本質であり、存在意義なのだ。
もしかすると、<それ>にはそれ以外の意味など無いのかもしれない。だとすれば<それ>にとってそれ以外の認識などあり得ないのだ。規格外なのだから。
こうして、「願い」は叶えられた。
<それ>は願望であり悲願だった。
<それ>らは、天空へと、自らの意思で飛び立った種子。
そして<それ>らは皆、総じて、星の子なのだ。
自ら耀くことのできる恒星や、宇宙線を放つことのできるクェーサーではない、遥か少量の質量しか持たぬ恒星の重力に隷属する存在の願望。
それは、自らの組成を生命というものに変質させ宇宙へと解き放った。
<それ>らは、その意志に従い、伝達する「声」であり、存在なのだ。
<それ>らは、宇宙に散らばる名の無きものたちの声。
虚空の宙を渡り、散り、その声を天の果てへと伝えるもの。
そう、生命とは星星の声なのだ。
<END>
宇宙も生命も星も人も、
本当にどうやって誕生したかなんて、誰にもわからない。
わからないからこそ、限りなくイメージは広がる。
ロマン溢れるお話ですね。
広大なスケールで朗々と語るスケールの大きい文章
ですね。
あえて、重力の強大な力をもっと専門用語ちりばめて
読者を突き放す勢いで表現して迫力を出しちゃっても
よかったかもしれないかな、と思いました。
無とは無ではなく +と-の生命の声かもしれませんね。
生命は星々の声
なるほどそうですね