「借りぐらしのアリエッティ」他ジブリ作品のネタバレ感想を含んでいます。
苦手な人、ジブリまんせーな方は回れ右。

　ジブリは基本好きですが原作つきをやらせると、原作レイプが限度を超えていて、正直好きではありません。
　「ハウルの動く城」は主人公の「声」に魔力があるという一番の肝の設定をガン無視。「ゲド戦記」に至っては、原作者のル・グインを何度目かの失望に追い込みました。
　今回の「借りぐらしのアリエッティ」も原作付きと言うことで最初私は観るつもりはありませんでした、が、監督は宮崎氏ではない、と知って観る気になりました。
　何故か？
　「ハウルの動く城」を見たとき、私は宮崎駿の明らかな老いを感じました。彼らしい社会批判を盛り込んでいながら何時もと違うと、そう思いました。
　「トトロ」あたりからジブリの和製ディズニー化は囁かれていましたが、まだこの頃は宮崎氏の毒が作品に仕込まれていました。
　トトロの何処に毒があるか？　と？
　この映画が公開された頃、日本は土地バブルの真っ最中。塚森のような土地は業者に買い取られマンションが建つ。そんな時代でした。
　実際この頃いくつもの鎮守の森が開発され、消えています。
　そんな時代に宮崎氏は安易な開発を真っ向否定する「トトロ」を発表したのです。
　この猛毒加減！　私は宮崎駿のこの反骨精神が大好きでした。
　が、先にものべた通り「ハウル」からどうも何かが違う。
　老いとは……牙が抜け落ちると言うことはこういう事なのだと、残念な気持ちの中でも、それが新陳代謝、次世代が育つ為の一つの壁だと思っていました。よもやまさか、ゲドで素人を監督に据えるとは夢にも思っていませんでしたがｗ

　こういったわけで私はハウル以降ジブリ作品はまったく見ていませんでした。数年ぶりのジブリ作品をスクリーンで観た事になります。

　アリエッティ達は人間世界から衣食住に必要な物を「借りて」暮らしています。昔のＳＦＴＶ作品「巨人の惑星」を見たことがあるなら、その世界を彷彿させるアニメでした。
　ハーブティを注ぐ時、二滴でカップは満たされ、クッキーを砕いて粉にしパンを焼く。ローリエは一枚で一年分。
　そんな世界です。
　初めて人間の世界から「借りて＝盗んで」くる時、アリエッティは心臓病の手術を控えた人間の少年ショウに姿を見られてしまいます。
　人間に姿を見られたら、引っ越さなくてはいけない。
　アリエッティたちの掟です。
　アリエッティはどうするのか？　小人を見たショウは？

　先ず神木くんの演技がすごかった。あと１０年したらこの子どんな役者になるんだろう？　大竹しのぶ、竹下景子、三浦友和、もう当たり前みたいに上手い。
　日本の普段の風景がアリエッティの視線になるとファンタジーになる。
　ショウがやってきてから庭や室内の情景を丁寧に丁寧に描写していきます。観客が20センチに縮んでしまったかのような錯覚を起こさせるほど
　しかし毒はどこにも存在しません。
　ああ、ディズニー化最終段階か。と、私はちょっぴり残念に思っていました。
　が、物語も終盤になり、思っても見なかった小人の味方であったショウの独白で「毒」全開。
　いえ、あれを「毒」と気づく観客は少ないでしょう。
　「滅ぶべくして滅ぶのが運命」これはショウが自分をアリエッティ達に投影してのセリフです。が、紛れも無い、これは宮崎氏から引継がれた、作品の根底にこっそり一筋流し込んだ「毒」です。

　ジブリはひょっとしたら私が（私たちが）大好きだったジブリに戻るかもしれません。
　子供に夢と希望を与えながら、抜き身の刃物を仕込んだような社会批判を混ぜ込んでくる。
　そんな高度な作品群を生み出していた頃に

　各コラム書評で言及されている「ラストのおいてきぼり感」は、宮崎氏の脚本ならこんな詰めの甘い事はしないはずだと確信しつつ、これが新監督のまだ牙の生え揃わない、乳歯で作品を噛み砕いた結果なのだと、そう感じました。

　評価が二分化しつつある映画ですが、観て損はないと思います。むしろ大スクリーンで細部まで書き込まれた「巨人の惑星」っぷりを堪能することをお勧めします。
　今作より次作に大きな期待が持てたのが何よりの収穫でした。