リフレイン・サマー(自作小説倶楽部お題)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/06/28 07:55:37
Refrain summer(自作小説サークル:自作小説倶楽部お題)
行き詰ると、私はよくここへやってくる。
家の近くの河川公園。
郊外に位置するその場所は、河岸を挟んで街を一望することができた。
季節は夏。
真っ青な夏空を背景にむくむくと入道雲が立ち上っている。
強烈な日差しのせいか人気は疎らだ。
適当な場所に腰を落ち着かせる。
少々潮風の混じる生暖かい風。
草の香り。
蝉の声。
「そういえば、あの時もこんな日だったなぁ…」
それは、ふと、あの夏の日を思い出させた。
◇
その奇妙な出会いもこの場所だった。
強烈な日差しの正午過ぎは、ほとんど人気は無く、考えるにはうってつけの場所だった。
当時夏休みまっただ中の私は土手に植えられた街路樹が落とす小さな影の中にいた。
その時の悩みは覚えていない。
しかし、焦点の定まらぬ視線で遠い先を見つめていたのは覚えている。
「やっと会えた」と、背後で声がした。
最初は特に気を留めるべきものではない他人事だと思った。
しかし、気配は段々近づいてくる。
そして、あたりには自分しかいないのだと気付いた時には、その人は隣に立っていた。
「隣に座ってもいいかな?」
「どうぞ・・・」
ちらりと視線を向けひっこめる。
見たことのない顔だが、どこかで見たような気もする。
「私も悩みがあるとよくここへ来るんだ」と、言ってその人は腰を下ろした。
よく来るということは、知らず知らずのうちに会っていたのかもしれない。
その人は私と同じように遠くを眺めながら、ひとり言のように淡々と語りはじめた。
最初は独りになりたかったのを邪魔された気がしたが、気づけば不思議と耳を傾けていた。
「これを君に」と、別れ際、あの人は上着のポケットから小箱を取り出した。
「なんですか?」
握られた金属光沢のあるメタリックケース。
中には細かな機械のような構造体がおさめられていた。
「記念だよ。今日という日を忘れないための。そして、運命を開く鍵だ。君はこれからも幾多の問題でここへ来るだろう。その時、これで私の言ったことを思い出してほしい」
謎めいた言葉と共に手渡された小箱。
それは重厚感があり、同じくらいに奇妙なものだった。
お礼を言って私はその場を離れた。
そのあとしばらくは、ここを来る時、また会えるかも、と、道行く人の顔を見るようにしていたが、それ以来あの人には会ってはいない。
◇
そうだ小箱。
あの小箱はどこへいったのだろう。
捨ててもいいと思ったけれど、結局捨てずに家へ持ち帰った記憶がある。
私は立ち上がると家路を急いだ。
帰り着いた私は、二階の自室へ翔け上がると、押し入れのふすまを開け放った。
たしかここに。
長らく忘れられた遺跡よろしく、収められた宝物庫。
山と積まれたガラクタの数々。
それらを引っ張り出して、探索を開始する。
「あ、あった」
そして、その奥に、それはあった。
ほこりは被っていたが当時の耀きを放って。
ほこりを払ってふたを開けた。
時間をとどめたように当時のままの奇妙な構造体が収められていた。
「これは・・・」
私の脳裏にあの人の言葉が甦る。
『これは運命を開く鍵だ』
そこに、その答えがあった。
◇
装置はそれから1年後に完成した。
量子物理学を応用したタイムマシン。
その中枢を担う、開いたタイムホールを安定させる装置。
その構造がここ数年ずっと私を悩ませていた。
あの小箱にはその構造のヒントがあったのだ。
そのヒントを基に私は装置を完成させた。
そして、私はいま時間旅行に出かけようとしている。
行先はもちろんあの場所だ。
約束の場所。そして運命の場所。
時空を超えてあの夏の場所へ。
小箱を携えて、私はその場所を目指す。
「やっと会えた」
私は木陰にたたずむ少年に声をかけた。
<END>
「こうくるかぁ~」といった思いが一杯です。
はじめは、木陰で物思う彼に心を寄せる女性が唐突に思いを語る話かと思いました。まさかのSFだったとは・・・
先入観で声をかけた人が女性だと思ってしまったのが間違いでした。(--)反省。。。
読みやすくそれでいて深みのある構成になっているのに感心しました!
↓で「だらだらと誤魔化して・・・」とありますが
十分すっきりとした文章だと感じました。
夏の日の何気ない一コマ。でも実はとても重要な日。
インディー・ジョーンズのような冒険モノではありませんが、
男の人特有の夢や憧れの詰まった作品だと思います。
そうそう。それが短編では非常に難しく悩ましいところです。
古典的でしたが、お眼鏡に叶いました様で嬉しく思います。
次回はもう少しひねりの利いたものが思いつけれれば、と思いますが・・・
お褒めのお言葉ありがとうございます。
謎・・・古典的なタイムパラドクスですがお楽しみいただけましたでしょうか。
河川の暑さにやられそうな現実に、突然、現れる男。
最小限の説明にとどめておいて、後半へひっぱっていかなきゃならない。
よくある「自分に会う」というパターンではあるけれど、苦手と言われるわりにはすっきりとまとまって面白かったです。
…あれ、では小箱を発明したのは一体誰に?
…謎ですねえ。
お褒めいただきありがとうございます。
短編は短くまとめないといけないので、無駄なくわかりやすくしなければならない上にその中でドラマを組み立てなくてはならないので非常に苦手です。
(ショートショートの星新一氏の作品などを読むとこの短い文でよく書けるなぁと感心しっぱなしです)
自分はだらだらと誤魔化して書いてる部分も多々あるので、それを削ぐのがなかなかできません。
まだまだ遠き道のりだと感じます。
それでも、いいネタを思いつきましたらやらせていただきたいと思います。
時間旅行、未来もしくは過去の世界が多元並列的にあるとすれば・・・
確かに興味深い感覚になりますねw
そのとおりです。
時間旅行、タイムパラドクス・・・非常に興味深いSFのテーマですw
時間旅行。人類の永遠の憧れでしょうか。
未来の自分に会うって、どんな気分でしょうね。
結局小箱はだれが発明したんだ…?
なるほど、これがタイムパラドックスですね。