「夏休み」(自作小説倶楽部お題)
- カテゴリ:小説/詩
- 2010/06/24 02:51:30
≪ほたるの滝≫
小学生の頃、僕と弟は決まって母の祖父母の家で夏休みを過ごしていた。
両親がともに新聞記者だったので、夏休みを家族で過ごすことが出来なかったからだ。
祖父母の家は、周りを田んぼに囲まれたドの付く田舎で、夜になるとあたりは真っ暗になり、虫の声やカエルの声がやけに耳に響いてくるようなところだった。
そんな夏休みのある日・・・
夜の8時を過ぎた頃、突然インターホンが鳴った。田舎の夜8時といえば町の深夜に等しく、インターホンが鳴ることなどめったにない。
チャイムの音に祖母が首を捻りながら出てみると、何とそこには父が立っていた。
「あら~健一さん!どうしたの急に!」
「いきなりすみませんお義母さん。丁度取材でこちらに来たものですから、タケシとヒロシに見せたいものがあるんで連れて行こうと思いまして…」
突然父が来たことに驚きながらも、僕らはウキウキした気持ちになり、急遽父が乗ってきた車で出かけることになった。
「お父さん、どこ行くの?」
「うん?それは着いてからのお楽しみだ!」
後部座席から身を乗り出すように問いかけた僕に、父はそう言って車を走らせた。弟も楽しそうに父の運転席の後ろにしがみついていた。
それから1時間・・・
星明りがすごく綺麗に見える暗い山道を走り続けた後、山道の途中にあるロッジ風の建物の駐車場に車は停まった。すると、僕らの耳に水の音が聞えてきた。暗くてよく見えなかったが、どうやら近くに渓流が流れているらしかった。
「さあ、こっちだ」
父の後にしたがって歩いていくと、どんどん水の音が大きくなっていった。そして、遠くにぼんやりと青くにじんだ光が見えてきた。
「タケ、ヒロ、ほら見てみろ!」
そう言うと、父は差した指を上へと向けた。その瞬間、僕も弟も言葉を失った。そこには、何万、何十万、いや何百万もの蛍が光りながら崖を埋め尽くしていたのだ。本当にほたるの滝だった!
「すごいだろ!」
言葉を失った僕らに、父はこう言いながら満面の笑顔を向けた・・・
それから2年後、父は事故で亡くなった。
大学生になった昨年、僕は7年ぶりに夏休みに祖父母の家を訪ねた。だが、ほたるの滝がどこにあったのか、また、それはまだ見れるのかも分からなかった。
ただ、その時見た父の笑顔だけは生涯忘れられないものとなった・・・
短い中に凝縮された想いが伝わりますね。
読んだ後 優しい気持ちになれる素敵な作品ですね。
生涯、その笑顔を忘れることはないと、暗に語っているのが心地良いです。
ただ単純に、息子達と一緒にいたかっただけの何気ない行動かもしれないけれども
息子にとっては生涯忘れる事のない夏の思い出として心に残るのですね。
蛍の生命も人間の生命も、等しく儚いのだと感じさせる作品ですね。
それなのに・・・。
なんだか泣きそうになってしまいました。
でも、彼ら兄弟のために、忙しかったお父さんの笑顔が見られて良かったです。
蛍となったお父様が
二人が会いに来てくれるのを
待っているかもですね
私も ゲジゲジの海を
どこで見たのか 思い出せないだす・・・。
でも、ウラの源さんのスキっ歯だけは 生涯忘れられません・・・だす。 ッテ、コラコラwww
素敵なプレゼントでしたね
コメント 何も言うことないです
ありがとう
きれいなホタルの思い出・・・。
けれど、怖いところもあってちょっと背筋が
「ゾクッ」ってなりました^^;
掌編として、なかなか優れていると思います。後日、掌編コンテストをご紹介しますので、出してみてください。