■近代文藝之研究|序に代へて人生觀上の…(7)
- カテゴリ:その他
- 2009/02/14 07:32:59
■近代文藝之研究|序に代へて人生觀上の自然主義を論ず 四(1)
四
知識で押して行けば普通道徳が一の方便になると共に、其の根柢に自己の生を愛するといふ積極的な目標が見えて來る。世間には此の目標を目障りだと言つて見まいとするものもあるが、自分には何うしても見えると言ふ方が正直としか思はれない。從つて今の所、若し私の知識で人生の理想標榜といふやうなものを立てよといふなら、先づ差しあたり是れを持つて來る。人生の理想は自愛である、自己の生である。自分の實行的生活を導いて來たものは、事實この外に無かつた。無論實行の瞬間はそんな事を思ふと限るものでないから、唯傳襲の善惡觀念でやつて居ることが多い。けれどもそれは盲目の道徳、醒めない道徳たるに過ぎぬ。開眼して見れば、顏を出して來るものは神でも佛でも無くして自己である。だから自己が即ち神である佛である。
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*註1:知識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg
*註2:普通
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:道徳
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg
*註4:方便
「便」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ben_tayori.jpg
*註5:目障り
「障」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syou_sawaru.jpg
*註6:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註7:今の所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註8:導いて
「導」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註9:傳襲
「襲」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syuu_osou.jpg
*註10:過ぎぬ
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:神でも
「神」の旧字体。「示」+「申」。
*註12:佛でも無くして自己である。
原本には「自巳」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註13:即ち神である佛である。
原本には句点のあと“カギ括弧閉じ(」)”が入っているが誤植と思われるので削除した。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
(2014/03/31/初校)