北の少年 砂海編 26
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/27 21:13:12
このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。
長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;
感想のコメントはとても励みになりますです^^v
全身から全ての精力がうせたような気がして、ロヴは歩くことすらままならなかった。
かろうじてジェンの寝ている部屋から歩いて出てきたが、宿舎の扉から外へでるころにはもうその場にへたり込みそうだった。
青い月が、中天に差しかかってきた。
長い、ほんとうに長い夜だったなあと、ロヴは月を眺めながらその場に座り込んだ。
最後に見たジェンの寝顔は、ほんとうに安らかだった。
熱に浮かされ、荒い息をついていたのが嘘のようだ。
ロヴは自分がいったい何をしたのか、よく解らなかった。
ジェンを失いたくなくて、ジェンを助けたくて、何とかしたいと心から望んだだけだ。
すると、腰の短剣が元の宝剣に戻って輝きだしたので、夢中でジェンの体に宝剣を翳した。
その後は自分の心の中で、ジェンに纏わりついていた黒いもやと戦った。
ラルムとの剣の練習が、とても役にたった。
ラルムの言葉に、どれだけ助けられただろうか。
そのおかげで、あの黒いもやを完全に消し去ることができたのだ。
夢から覚めたように正気に戻ったら、苦しんでいたジェンは安らかな寝息をたてていた。
「ラルムさんに、お礼を。言わなきゃ…」
ぽつりともらした少年の声は、すっかり枯れてしまっている。
「とうとう、声変わり、本格的に…」
そこまで呟いたところで、少年は意識を手放した。
さきほどから狙っていた睡魔が、ロヴの心を捉えてしまったのだ。
少年は背中を宿舎の壁に預けて、深い眠りに落ちていった。
「寝ているときの意識はな、最も死の世界に近いという学者もいるんだよ」
そう話しているのは、懐かしい祖父の声だ。
久しぶりに聞く祖父の声は、低くて穏やかで耳に心地よかった。
ロヴは、その声をいつまでも聞いていたかった。
これは夢に違いない、自分は夢を見ているんだとロヴは自覚した。
そうでないと、一年も前に亡くなった祖父の声が聞こえるはずがない。
「まあ、夢でも何でもいいから、目を開けてみたらどうだね」
笑いを含んだ祖父の声が、ロヴに語りかけてくる。
ロヴは恐る恐る目を開けてみた。
例え夢でも祖父のハランに会えるのなら、こんなに嬉しいことはなかった。
少年の目の前に、片膝をついて彼を覗き込む祖父の顔があった。
その背後には、霧のような白いもやが渦巻いていた。
赤毛の混じる白髪と、よく日にやけた皴深い笑顔、それにいつも笑みが宿っていた暖かな灰色の瞳。
自分を見つめるときは、いつもほのかな青い影があったっけ。
ロヴの記憶に鮮やかに蘇る笑顔と、目の前にある人物の笑顔は寸分たがわぬものだった。
ロヴは一瞬だけ息を止め、じっと祖父の顔を凝視して、いきなり老人の首に抱きついた。
「爺ちゃん!」
祖父の体を全身で抱きしめるように、固く強く抱きしめる。
自分のの背中を、祖父の両手が優しく抱き返す感触を、ロヴは懐かしく感じていた。
「ロヴ、大きくなったな」
ハランは孫の両肩に手をおいて、その体をはなして、じっと彼の瞳を覗き込んだ。
同じ灰色の瞳は、感情が動くと青い影が落ちる。
ロブの瞳は涙に濡れて、夕暮れの雲のような仄かな青みを帯びていた。
「ロヴ、すまないが、あまり時間がないのだよ。よくお聞き」
「はい」
手の甲で、ロヴは自分の涙を拭った。
その素直なしぐさはまだ幼さの残るもので、少年の未熟さを物語っているようだ。
ハランはこの素直さと幼さが、ロヴの強みでもありまた弱みでもあると、心の中で考えていた。
あの、ジェンという女性に出会って恋をしたことが、孫にどんな影響を与えていくのか。
それを見届けられないのはとても残念だとも思った。
だから、これだけはロヴ本人に伝えておかないと。
「私は、もう逝かねばならない。今までお前を守ってきたが、それももう終わりだ」
「…それは、どういうことなの?」
「詳しくは、ジェンに聞きなさい。覚えていると誓ったから、あの子なら覚えているだろう。いいか、ロヴ。ジェンがお前に真実の名を告げるから、その時は全てを彼女に話しなさい」
「全てって、短剣や両親のこと?」
「そう、手紙のことも全てだ。わかったね。これを忘れるなよ」
ハランはそれだけ話すと、もう一度ロヴを強く抱きしめた。
「どうか、いつまでも元気でいるんだよ」
そう囁く声を最後に、ハランの姿は消え去ってしまった。
まだ、抱きしめてくれた祖父の腕の感触と、囁く声を耳に感じてロヴはその場に立ち竦むのだった。
そういうことになりますね、
ハランが気にいったじじコン作者ですwww
さすがに作者も寝覚めが悪くて、こうなりました。
灰色の目に青い影が 印象的です^^
早い時間に、感想ありがとう^^
懐かしい人と夢で会えたら幸せかもしれないね。
どうにか、ハランとロヴを再会させる事ができました。
感動したよーw