■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(28)
- カテゴリ:その他
- 2010/05/26 23:16:20
■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第六(4)
即ち宗教畫として偉大の力を有する所以なり、されども一たび頭を回らして之れを思ふときは、我が心中に尚ほ何者かの不滿あるが如し。此の畫に、神聖は是れあり、耽溺は之れあり。人の心のさま尚中世の如くして、既成の基督教義に絶對の威權ありし世は、是れを以ても足れりとせしならむ。否、此の書はすなはち此の如き世を代表したる者なるべし。是れわが古派と名づくる所以なり。然れども、時移りて、文藝復興の氣に感染したりし人は、必ずや之を十分に滿足とはなし得ざりしならん。蓋し此のマリアは余りに神聖なればなり、余りに信仰一圖、神々しさ一邊にして、動もすれば模型的となり、抽象的となり、血あり肉ある此の世の人と遠ざかるの度余りに大なればなり。
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*註1:即ち宗教畫として
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「教」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_oshieru.jpg
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg
*註2:所以
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註3:之れを思ふときは、
原本では「ときは。」と句点になっていたが誤植と思われるので読点に改めた。
*註4:尚ほ・尚中世
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
*註5:何者・代表したる者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註6:此の畫
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg
*註7:神聖
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
「聖」の旧字体。「王」が「壬」。
*註8:耽溺
「溺」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/deki_oboreru.jpg
*註9:既成
「既」の正字体。「白」+「ヒ」+「旡」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sudeni.jpg
*註10:基督教義
「教」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_oshieru.jpg
*註11:絶對
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg
*註12:否、此の書は
「書」は原本のままだが、「畫」の誤植の可能性も考えられた。判断に迷ったので、原本のままとした。
*註13:文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註14:十分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註15:信仰一圖
「一圖」は「一途」のほうが一般的だが、当て字として間違いと断定しかねるので、原本のままとした。
*註16:神々しさ
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註17:遠ざかる
「遠」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1