北の少年 砂海編 23
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/24 17:06:44
このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。
長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;
感想のコメントはとても励みになりますです^^v
気配を感じることなく背後に立たれたため、思わず戦闘態勢をとったジェンだった。
だが、声をかけてきた老人のあまりの気配と邪気のなさに、いつのまにか警戒を解いていた。
抜いた剣を元の鞘に収めて、その柄に右手を置いただけでその老人と相対した。
完全に警戒を解いたわけではないが、普段の彼女からするとかなり無防備な姿勢だった。
老人は微かに唇をほころばせて、一歩ジェンの方に近寄った。
両手のひらをジェンに向けて、敵意がないことを示している。
「あんたは誰で、ここは何処だ?」
ジェンは、何処かでみたような気がする老人に向かって、単刀直入に問いかけた。
「私は、ハラン。ここは何処でもない場所…かな」
老人の答えは明確であり、曖昧でもあった。
ジェンはハランという名前に、聞き覚えはなかった。
何処でもない場所とはどういうことだろうと思った。
だが、この老人には、どこかで会ったような気がする。
面白そうな光を浮かべる老人、ハランの灰色の瞳にほんの少しだけ青い影が落ちた。
その瞳を見て、ジェンははっと気がついた。
(ロヴ!?そうか、この人はロヴに似ているんだ!)
ジェンの心に、邪気のない笑顔を浮かべる赤毛の少年の面影が浮かんだ。
その笑顔と、老人の顔がぴたりと重なる。
「あなたはロヴのお祖父さんだな」
ジェンの問いは、ほとんど断定口調だった。
迷いもなく、戸惑いもない視線がハランの瞳を捕らえた。
「そうだ。私はロヴの祖父だよ。トーナの傭兵ジェン」
ハランは表情を改め姿勢を正して、右手を胸にあてジェンに対して深々と一礼した。
彼の正式な一礼は、優雅で気品があり、只者でない品格が伺えた。
「アルバでは孫の命を救っていただき、心から感謝する」
「礼には及ばない。あなたは亡くなったと、ロヴから聞いている。そのあなたとこうして会っているということは」
ジェンは迷うことなく、自分に対する質問を相手に投げかけた。
「私は死んだのか?」
老人は再び面白そうな光を瞳に宿して、ジェンの質問に答えた。
「いや、正確には死にかけているだ」
「そうか。人狼にやられたから、その毒のせいだな。あの治療魔法士の先生は解毒の呪文が使えないといってたし、あとは体力の問題か」
普通、死にかけていると告げられたら取り乱しそうなものだが、ジェンは驚く様子もなくその答えに納得していた。
それどころか自分が死にかけている原因を分析して、自分がどんな状況にあるのか冷静に判断を下していた。
「契約中に死にかけるなんて困ったな。契約破棄になったら、違約金を払わなきゃならない。どうしたものかな?」
死んでしまったらそんなことで悩む必要はないというのに、ジェンの悩みは本題からかなりずれているようだった。
いくら気配が皆無だとはいえハランの前だというのに、自分の考えに没頭しはじめたジェンをみつめてハランはぽつりとつぶやいた。
「まったく、面白い助け手が現れたものだ」
ジェンの病床で短剣を翳して精神の集中を続けるロヴの心の中では、熾烈な戦いが行われていた。
彼の目前には、四肢を伸ばしてぐったりと横たわるジェンの姿があった。
アルバの都でいつも身につけていた古い皮鎧を身につけ、腰には愛用の長剣を帯びている。
ただ、左手と左わき腹に怪我をしていた。
特に無残なわき腹の引き裂かれた傷口には、黒いもやのような物がいくつもまといついてジェンの体内に喰い入ろうとしていた。
「駄目だ!ジェンの体からでていけ!ジェンの体から離れろ!!」
ロヴはそう叫ぶと、短剣でその黒いもやを切りつけた。
短剣の刃に刻まれた文字が光って、黒いもやを霧散させていく。
(そうだ、いいぞ、ロヴ。右に払って、返す刃で左上に切り上げろ)
ラルムの指示が、ロヴの脳裏に蘇えってきた。
(傭兵の剣は、生き延びるための剣だ。自分が生き延びるために、最大限の努力を忘れるな。それが仲間を助ける道ともなる)
「ジェンを、仲間を守るんだ!」
そう心に強く念じて、慣れない戦いを続けていく。
黒いもやは、少しづつジェンの体から離れ始めた。
最初に左手の傷口にまとわり付いていたもやが消えて無くなり、その傷がゆっくりとふさがっていった。
短剣の光は徐々に強くなっていき、わき腹にまとわり付くもやも、ロヴが切りかかる度に霧散していく。
もやが消えていくたびに、ロヴは酷く疲れを覚えて、意識が薄れそうになった。
だが、ジェンを助けたい、ただそれだけを思って必死に戦いを続けた。
切って払って、もやを消し去っていく。
どれだけの時間、それを繰り返しただろうか。
気が付くと、ジェンを犯していたもやは消え去り、切り裂かれた傷も綺麗にふさがっていたのだった。
一度、ジェンとハランをあわせたかったんですよ。
で、こんな形になりました。いかがでしょうか?
ジェンの反応は死にかけやから、少しは動転してるのかなw?
こんなきっかけからまさか出会う?ことがあるなんてね!
こんな場面で違約金の心配をするジェンは…やっぱりいつものクールな彼女とは違うねっ(^O^)アハッ
そのとおりです。
いきなり亡くなってしまったから、死ぬにしにきれいという^^;
そうですか?本当にそうだといいです。
つたない作品でも何かを伝えているのなら、書いたかいがあります。
前回と今回は描くことに苦労したので、ありがとうございます。
これでジェンも大丈夫のはずです。
momokaさん、長らくはらはらさせて、ごめんね^^
おそらくその希望は読んでいる人にそのまま伝わっていっています。
「だいじょうぶ。心配しないで、生きなさい。」
と言われているような気がします。
ロブがジェンに、ジェンがロブにしたように、
ラトさんがしたことも、ラトさんにきちんと戻っていきますよ^^
ハランなんて.......
ロヴの願いで毒もなくなったみたいで
安心しました(^_^)v