■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(26)
- カテゴリ:その他
- 2010/05/24 08:42:03
■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第六(2)
されども此は寫實理想の語を妄用して自ら矛盾の結論に陷る滔々者流の筆法なり。古今同嘆、深く論ずるに足らず。ラファエロの寫實は必ずしも定規を手にし解剖學書を傍らに置き乍らといふが如きものにはあらざりしならん。されど其の疎描たると、密描たるとに論なく、背景に於いて、遠近、布置に於いて、明暗、權衡に於いて、歩一歩前代の穉氣を脱し行くの觀あるは、大局に於ける寫實的精神の發展なり、理想は目的として之れあるを妨げず、手段としての寫實的精神の發展、すなはち知識の光明を増せる徴候は、ラファエロが畫に於いて歴々數ふべし。是れ疑ひもなく、彼れの畫をして、何所ともなく一種近世的、若しくは近世にも尚且活きたりといふが如き感を呼ばしむる所以ならずや。
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*註1:されども此は
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:滔々者流
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註3:遠近・近世
「遠」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註4:明暗
「暗」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/an_kurai.jpg
*註5:前代
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註6:脱し行く
「脱」の旧字体。旁が「兌」。
*註7:精神
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註8:妨げず
原本では「妨けず」となっていたが誤植と思われるので改めた。
*註9:知識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg
*註10:増せる
「増」の旧字体。旁の「曽」が「曾」。
*註11:歴々
「歴」の旧字体。「林」が「禾」+「禾」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/reki.jpg
*註12:何所・所以
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註13:尚且
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1