Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


【『侵されざる者』(ダイアモンド)】(承前)‐2

 少女は、リュックを胸に抱えるようにしながら、中を探り、分厚いファイルを取り出した。「お母さん」と呼ばれた女性が、それを受け取り、中を開いた。色あせたインデックスに書かれた記号を、慎重に読んで行く。
 やがて、
 「そうね。これは違うわね」
 そう言うと、ファイルを閉じて、傍らに置く。
 「これだけ?他には無かったの?」
 「うん…あったけど」
 再び、リュックの中を探る。
 「これも違うと思う。念のため、見る?」
 差し出されたもう一冊のファイルを、同じように調べる。
 新しいパンの袋を破りながら、少女が言う。
 「他にはそれらしいファイルはなかったから…媒体が紙でなかったら別だけど」
 「それはないと思うわ。少なくとも、所長が管理していたのだったら。あの人、デジタルメディアの保存性に信頼を置いていなかったから。…バックアップは取ってあったかもしれないけど、一次資料は、必ず紙に記録することになっていたもの」
 「…ほろんへ?」
 口の中にパンを頬張ったまま、少女が尋ねる。保存性、と言ったらしい。
 「再現性、と言った方がいいかもね。紙だったら、破れても張り合わせれば読むことができるけど、デジタルメディアが破損したら、全体がぱぁ。そもそも、再生装置と、電源の両方が生きていないとただの「もの」になってしまうから、って」
 「…じゃあ、その点では、その所長さんって人、先見の明があったわけだ」
 建物が崩壊するほどの地震で、電子的な記録は、媒体も、再生装置も、かなりのダメージを被っている。電気の供給も断たれて久しい。
 「どちらにしろ、わたしたちに役立つ資料が残ってなければ、同じなんだけどね」
 「あ……そうだったね。……どうしようか?」
 「どうしようか、って……二三日時間をちょうだい。このファイル、調べてみるから」
 「……いいけど、明日から五時起きでしょ?そんな時間、あるの?」
 「ああ、そうだったわねえ…まあ、なんとかするわ」
 そう言って、「娘」の頭をくしゃっと撫でる。
 「またそうやってコドモ扱いするぅ。来月にはもう十八になるっていうのに」
 「だって、コドモでしょうに。どう見たって」
 少女の身長は、「母親」の胸の位置にも届かなかった。その事実を指摘されて、少女が軽くむくれる。
 「それに、あなたは、紛れもなく私が産んだんだから、その意味でも、子どもだわ」
 「それはまあ、そうだけど…なんか、ズルイ」
 「いつでもコドモ扱いできるのは、親の特権よ。今日は疲れただろうから、早く寝なさいね」
 「まだ眠くはないけど……そうする」
 椅子を滑り降りて、寝室の方へ行く「娘」の後ろ姿を見ながら、「母親」が小さく溜め息をついた。
 そして、ファイルをぼんやりとめくりながら、かつての自分に思いを馳せた。

#日記広場:自作小説

アバター
2008/10/23 01:15
おおー続きですね。

大崩壊したらデジタルデータは約に立たない・・・。
紙は偉大ですねw。

どんな展開になるのか楽しみ♪
アバター
2008/10/22 23:04
次回を楽しみにしています・・・。



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