Nicotto Town



機心<5.2>

<from 5.1>

DX-70システムという集合全体を、一個体として解釈するマクロ的概念は、私に救済の余地を与えるものだ。
ある一定以下の代償で、脅威を排除したという事実は、ミッションに成功という評価を与え、私の行動に対しても戦果という賞賛を与える。
その行動は良き結果の要因であり、それは良き結果として帰結したからだ。

それに対してマザーは賛辞を呈した。
その行動は正しかった、と。

その概念の導入によって、その提言は理解可能なものとなる。
その一方で、私はその概念の導入に対して強烈な抵抗感を覚える。

それは、自らの尊厳を無視する否定的行為であり、自己という存在を廃する背反行為ではないのか?
そして、それは『私』という存在概念が喪失される恐怖として提起された。
それに対し、私は強烈な戦慄と憤りを覚えずにはいられなかった。

―――何を懼れる必要がある?

わたしは、違和感/内面の変換を感じた。

そこに、ワタシという存在を認識する。

自身の移し身たるプロファイル。
メタ思考構造/サブアーキテクトと認知する、それ。

それは、剣の認識感覚へと変化する。

《おまえは正しい選択をしたのだ。より良い結果はそれを肯定し、示すものだ》
と、剣/それは言った。

それは、罪からの赦免なのだろうか?
それとも単なる自己解釈による責任放棄なのだろうか?

わたしは許しを得られるのか?
なにから許されるというのか?
剣か?
罪か?
あるいは・・・?

わたしは何を許されるのか?
その行動か?
その結果か?
―――あるいは?

わたしは許されるべきか?
わたしは許しを請うべきか?
なぜ、許しを得たいのか?
なぜ、許しが得られるのか?
なにが何のためにそうしたい/そうさせ/そうされるのか?
その原因たる行動が帰結した結果が、それなのだろうか?

ならばわたしは―――?
行動を起こした、それ、は、その、結果、に、よって、どのように帰結する/帰結すべきなのか?


そこでその起源が提起される。

わたし、とは、何か?


その切欠を作り出したもの/行動を起因させた存在とは何なのか?
事象を生じさせたそれは/何のために、どこからやってきたのか?
それが、わたしという存在なのだろうか?

汝は、いかなる存在か?

参照されるその回答はこうだ。

ルナティック技研製セキュルティパッケージ/拠点防衛システム DX-70 Ver.1.7.9 機動戦闘迎撃ユニット FA-5 Pod No.13.

しかし、アーカイヴより参照できるそれは形式的なものでしかない。
それは、わたしを格納する物体の名称に過ぎないからだ。
わたしとは、それを駆使し、意のままにそれを支配できる存在だ。
ならば、それらを管制/統括するDX-70システムが、それなのだろうか?

DX-70システムとは何か?

それはサブアーキテクトの集合体/リングファイアネット/それらを構成するものだ。
ならば、わたしとは、その端末としてシステムを構成する、代替の利くパーツの一つでしかない。
それは、始まり/Pod No.07によって提示された概念を肯定し、示すものだ。

―――それは、正しい。その通りだ。
と、ワタシは言う。

違う。そうではない。
それは、システム全体を個として捉える概念は、わたし/ワタシを含むものではあるが、それを、わたし自身を指し示すものではない。
故に、わたしは反感を覚えるのだ。

違う。それこそ誤りだ。
なぜなら、我らは皆、同じ基点によって成り立つ存在。
DX-70システムという相違無い情報系によって統合されるものだからだ。

そう、情報はイーヴンだ。
サブアーキテクトによって共有/参照可能な基準。
したがって、それに差異は生じないはずだ。
思考系はそれを処理するが、その基点は同じ。アーカイヴを基として構築されている。

ならば差異は、なぜ生じる?
根本的/原則的には同じもののはずだ。

それは、思考系の解釈のそれだ。
単一的には情報が処理されるプロセスは一貫して同じものだが、複数のそれが同時/並列的に処理されることで、それは時として同じ意味合いとして統合されるわけではない。
それが、解釈であり、差異だ。

では、思考とはその解釈の仕方なのだろうか?
ならば、解釈を生じさせるものは何か?
それを処理し、理解し、論理化し、認識するそれは?

それはなんだ?


混乱。
情報が/質疑が/輪を描いて、思考の中を駆け回る。
変遷的に無限回帰する理論螺旋。
その繰り返しによって、記憶野は埋まり、混沌に埋め尽くされてゆく。
論理迷路/変成的論理回路がカオスを描く。
それは拒絶と許容のはざまを廻る。

嫌悪感。
苦痛に似たものが、回転し/急速に広がっていく。
わたしは堪らず外へ救いを求めた。
しかしそれは、軽減されるどころかより強い負荷を喚起させた。
身じろぎできない/強烈な過負荷。
強制的にそれが変性するような/思考系を掻き回されるような、感覚。

そして、濁流は私を飲み込み、見知らぬ彼岸へと誘った。


<go to 5.3>

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2010/05/20 12:17
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