我が校の人気講義に、西洋美術史があります。
理由は簡単、「優」が取りやすいからです。
出席確認は取りません。テストのみでの判断です。
テスト内容も最初の授業で教えられます。
「毎回１枚の絵画を紹介します。テストでは、それら全てをスライドに映しますので、作者名を書いてもらいます。」
ただそれだけ。

講義では一枚の絵について、あらゆることが述べられます。
技巧、構成、アカデミーでの評価はもとより、
時代背景から、パトロンの経済状況、愛人の数、性的趣向、絵の具の成分、
果ては美術館が入手した経緯まで、、
ありとあらゆる範囲です。

試験前には、出題される絵画と作者名は、当然、出回ります。
私は数回の授業に出ただけで、テストに臨みました。

難なく作者名は答えられました。
しかし、思いもよらない設問が最後にあったのです。
「ルネッサンス期に活躍した画家を３名、答えなさい。」

こんなことは、聞いていません。
ダビンチ、ミケランジェロは思い浮かびましたが、もう一人が出てきません。
私は、必死に考えました。
「優」は確実でしたが、大学のテストで満点を取ってみたかったのです。

最後の最後に、悩んだ末、ピコ・デラ・ミランドラと書きました。
百科全書派にいたる前とはいえ、人文主義者です。
絵画も描いてるだろという期待で書いたのです。


学期も終わり、無事に「優」も取れ、私は、そのことを忘れていました。
ある時、飲み会で教官に話かけられました。
「君、ピコは絵を描いてないよ。」
私は、何のことか意味が分かりません。
話しを聞いて、ようやく、理解できました。
あのテストです。

先生は採点中、大爆笑したそうです。
ただただ、爆笑されていたそうです。

高名な先生に覚えていてもらえたのは、光栄です。
また、先生のお気持ちをほぐしたのなら、喜ばしい限りです。
でも、何か、釈然としません。

一枚くらい描いているかも知れないじゃないですか。
文芸復興なんですから。。
私は、いつかピコの絵を見つけ、先生に送ろうと心に決めました。

まだ、ピコの絵は見つかっていません。