機心<4.1>
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/10 06:18:09
4
マザーへの帰投は、賞賛と讃美を持って迎えられた。
しかし、そこに僚機/剣の姿は無かった。
私は罪悪感と自己嫌悪に苛まれる。
物理的損傷=痛み/決断への後悔=苦脳。
ハードとソフトの二重苦。
それが、私の犯した罪への罰なのだろうか。
それは、機体が修復され、物理的な痛みが解消された後も私の思考に残り続けた。
しかし、もうどうすることもできはしない。
あの赤黒い衝動も、あれ以来嘘のように消え去ってしまった。
喪失感。
無情なそれが、思考系の中に、ただただ、広がるばかりだった。
その思考に記録<ログ>は、その光景は、モノクロームとなって舞い降りる。
放出された誘導機雷は、剣へめがけて直進する。
軌道変更/それを見送る私は告げた。
〈貴機を援護する。 ―――Back up to you,Pod No.7 〉
電磁障害下にあるとは言え照準波の照射を受けていることを剣は認識していたはずだ。
しかし、剣は<了解した。Pod No.13。貴機の援護に感謝する>と、応えた。
私には、わけがわからなかった。
そして、こう告げた。
〈正しい選択だ。鋼翼。これでいい。いいんだ・・・ ―――Thank you...〉
―――なんだ。これは?
その意味を問おうとしたとき、閃光は瞬いた。
接近信管が作動したのだ。誘導機雷が爆発。
発生したエネルギー波が、電磁障害の爆風が吹き荒れる。
爆風が/エネルギー放射が収まると、電磁障害は完全に消失/レーダー及びセンサ群が復活した。
直ちに全方位索敵。
観測結果に敵機の反応は無い。どうやら、破壊できたようだ。
電磁障害はの原因はあの黒錐だったのだろう。優れた電子戦能力があったに違いない。
しかし、剣の反応も消えている。問いかけにも応答がない。
やがて通信系及び統合戦術情報系が回復。
通信>《電磁障害の消失並びに敵機の撃墜を確認した。直ちに帰投せよ》
〈了解。マザー〉
私はその帰投命令に従った。
帰還した私は、DX-70システムとリンク。
マザー及びリングファイアネットに組み入れられる。
それは以前の眠りとは違うものだ。
半覚醒/半共有共感覚/サブアーキテクチャによる思考のメタプロファイリング。
私の収集/蓄積された、戦術情報の共有化/並列化し、自らを/メタ思考を再構築する。
私はワタシであり、DX-70システムとして還元される。
私は告白した。
事後報告としてではなく、自らをその罪から断罪するために。
私が剣を撃ったのだ、と。
しかし、ワタシ/リングファイアネットはこう回答した。
回答>それは、事実ではない。
質問>では、事実とは何か?
回答>敵機、我々に対する脅威が、破壊されたという事柄である。
質問>ポッドNo.7は破壊されたのか?
回答>破壊された。
質問>なぜ、破壊されたのか?
回答>詳細は不明。敵機への攻撃に巻き込まれた可能性が高いと推察される。
質問>その攻撃を行ったものは何か?
回答>PodNo.7及びNo.13である。
質問>敵機を破壊したものは何か?
回答>誘導機雷AUM-27及びPod No7である。
質問>Pod No.7を破壊したものは誰か?
回答>Pod No.7自身である。
私は、閃光が走る前の光景を思い出す。
剣が僅かに内角へ寄ったようにも見えた。
それは衝突軌道ではなかったか?
ならば剣は―――。
ワタシは言う。
陣営の観測システム群/リングファイアネットの哨戒システム群にその瞬間は記録されていない。また提出した戦術記録情報を参照しても、明確な状況判断材料は得られない。と。
そう、その瞬間の記録はなにも残っていない。
接近信管が先に作動したのは間違いない。
だが、敵機を破壊したのは礫弾だったのか?
それとも剣だったのか?
剣を破壊したのは誘導機雷か?
それとも―――?
ワタシは言う。
総合的判断に基づくそれらの行動は、誤ったものではない。
状況において最優先すべき事項は敵機の撃墜だった。
したがって、それに至るプロセスが、ある一定以下のリスクで遂行可能であるならば、それは行動原理に反さず、正しいものである。
つまりは、結果が良ければすべてよしというわけだ。
では、攻撃が失敗し剣が犬死しても、そう評されたのだろうか?
私が機雷を放出せずとも、剣は敵機を撃墜したのではないだろうか?
私はそれを仮定せずにいられない。
しかし、どう仮定しようともミッション時間は不可逆的な事象情報だ。
リングファイアのログを書きかえる事はできない。私はその術を知らない。
そして、空いたNo.7ハンガー同様、思考に空白を残し、そのミッションは終わった。
月のクルツ工廠へと帰還するとともにDX-70システムは修復/再編された。
システムがアップデートされ、欠損の補充と追加が施された。
そして、空だったNo.7ハンガーにも、新しい機動戦闘用ユニットが搬入されてきた。
しかし、それは私の想像を超えていた。
そこに、システムに接続されたそれは、剣だったのだ。
<go to 4.2>
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- スイーツマン
- 2010/05/15 14:04
- 戦闘シーンの合間に、日常の様子をいれるといいですよ。同僚・家族・恋人とののどかな、やりとり。日常会話の中で、世界観・状況説明をだしていけます。また、そういった憩いの時間が、激しい戦闘シーンを際だたせると考える次第。
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