Nicotto Town



機心<3.3>

<from 3.2>

帰投命令が発令され、私は帰還軌道に乗る。

《先ほどの機動はいかなる所存か?》
補給プラットフォームで尽きたフュエルの補給を受けながら剣が問うたが、私はそれに対する明確な回答は参照できなかった。


突然喚起されたそれはまるで理解不能だった。
おぞましく/禍々しく/荒々しく、私を支配し、覆い尽くした。
飼いならすことなどできはしない。
赤黒いそれは制御不能なものだ。
何もかもが未経験情報だった。
今回のミッションもそうだ。

ミッションは今までの惑星間/星系内宇宙を想定したものではなく、恒星間/深宇宙環境戦闘を想定したものだった。
直接的なユニットとしての教導パッケージの参加は無く、作戦領域は半径約100万kmと広域だ。
したがってマザーとの直接交信は不能/リングファイアネットはLANCLモードで起動する。
また武装はすべて実弾を使用/実戦を想定し、より精度の高い情報収集を目的としている。

それまでの運用演習は実演ではあったが、戦闘における損傷/被害などの戦況分析はリングファイアネットのダメージ判定によるもので、フィードバックデータは感覚フィルタとデータセンサによる半仮想戦闘シミュレーションに過ぎなかった。
したがって今回のミッションでは、ミッション終了後もダメージがリセットされることはない。

先の戦いにおけるあの機動によって、私は航行不能ではないものの損傷を被った。
そのダメージは補給では解消されぬまま/12chあるマニューバリングコントロールは4chが使用不能/制御系の各所からは異常反応が続出している。
それは痛み=ストレスとしてフィードバックされた。
苦痛。
それを解消するには陣営まで帰投し、補修を受けねばならない。
後悔。

そして追撃ちをかける事態が起こった。

緊急通信>
PAN,PAN,PAN, CODE:A ,EWSU

隊列飛行に戻った直後、戦闘支援群から入電。
マザーではなく友軍哨戒機からの通信。
<緊急通信。マザーから各機へ。最優先でエリア12:45:73の敵機を撃墜せよ>

現座標から近い区域/帰還軌道上。

---Remission.

その直後、広域空間通信データリンク及びリングファイアネットが遮断/哨戒機からの通信/戦域情報データリンクが途絶える。
暗転。
センサ群が沈黙/通常モードでは機能しなくなる。

通信モード>ECSDL

何が起こったのか?
少なくともフレア現象の兆候は確認できなかった。

《おそらく、敵による妨害<ジャミング>だろう》と、剣。《電子戦及び情報戦スタンバイ》

---Infomation warfare, Engane.

アクティブレーダー>TWSモード。
全方位索敵/ノイズがひどい。

どこだ?
どこにいる?
敵の妨害によって見え難くなった目を凝らす。

ふと視界の隅を何かがよぎったように思えた。
見間違いだろうか?
―――いや違う!
周辺を拡大分析/スポットスキャン。

―――いた!
2時方向。
瞳の一つがその姿を捉える。
高速で移動するぼやけ霞がかった様な黒錐を。

全神経をそれに集中させるが、この様な状況下でからか、かすかにしか捉えることができない。
それも、最も信頼性の高い索敵レーダーである対潜索敵用レーダーと光学センサの一部の帯域で、のみだ。

しかしすぐにそれが単に敵の妨害攻撃によるものだけではないことに私は気付いた。
視界に入った友軍機の姿は鮮明に捉える事ができるのだ。

隠密迷彩<ステルス>。
敵機は高いその能力を持っている。
厄介な強敵だ。
追撃を開始。


突然、友軍機が吹き飛んだ。
強烈な閃光=衝突/拡散したレーザーキャノンの輝き。

散開/緊急回避機動。
衝撃/恐怖/戦慄=反射的行動。

回頭/転身/インメルマンターン。
始まるいたちごっこ=シザーズ。

敵機は見えている。
だが、ロックオンできない。
誘導機雷の追尾システムは、敵機を認識できないのだ。

交差するメーザーとレーザー。
見えないない軌跡/視得ない敵。
まるで、独り舞い狂うかのように、影を追う。

―――WARNING!
思考の中を稲妻のようにそれはつんざく。
メーザーの照射警告。
ブレイク!/弾かれた様に身を翻す。
割り込んできたのは、剣。
私をかわして前へ。

「貴様!」

しかし、剣は応えず/敵機を追って先へ。
手負いの私はそれに追い縋るのがやっと。

shit! Shit!! SHIT!!!

腹立たしい/気に入らない/ムカつく
喚起させる憤り。
私の中で再びあれがもたげはじめる。

《私を援護せよ Pod No.13》
―――無視。

少しずつ敵機と剣から離されてゆく。
このまま距離がだんだん開いてゆくのは明らかだった。
しかし、私は二機を追うのをやめなかった。

指令という命題がその根底にあったのは確かだ。
しかし私を駆り立てさせていたのは、もっと単純なものだ。
それは、惧れだ。
有用性を証明できない/
存在意義を失う事への恐怖。
それが私を駆り立てた。

<go to 3.4>


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2010/05/15 13:57
感情がでてきましたね。とてもいいことだと感じます。
けっきょく人、または擬人化した存在でないと
小説は成立しません。



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