Nicotto Town



機心<3.2>

<from 3.1>

その一件が参照されたのは、それからだいぶ経った後のことだった。
疑問を抱くべき事象などなかった。
それは単なる経験情報に過ぎぬのだから。
それよりも重要だったのは、リングファイアネット及びマザーより発令されるミッションを如何にスマートにクリアするか、だった。
それが思考の念頭にあった。
それが、それこそが興味の対象だったのだ。
したがって、経験情報の参照はされていた。
常に格納されたエクスペリエンス・アーカイブにアクセス/ログを参照/より良い/より洗練された/より的確な、スマートな選択を判断し、実行していたのだから。
ならば、なぜその事象を認識しなかったのか?
気に留めることをしなかったのか?

『実行すべきタスクには優先順位があるからさ』
そう答えを返したのはPod No.7だった。

No.7/僚機。
DX‐70システム機動戦闘ユニット、Fa-5のパーソナル・ドライバ。
ある教導パッケージが、剣<セイバー>と呼称する個体だ。

『我らの存在意義は、主の敵を排除し、システムに対する物理的な損害を可能な限り減少させることだ』と、剣は告げる。『故にそのタスクには優先順位がある。その宿命に準ずる行動が優先される』

それは我とは別の思考系。
「主とはなにか?」と、故に我は問う。
>to Pod No.7

返答>
『主とは君がマザーと呼ぶ概念だ。我らのメタ思考的上位意識。リングファイアネットと同じ統合情報意志/我々を司るオペレーティング・システム。故にそれは我らが主と言えよう。我らの意志は主の意志でもある』

総意。
それがマザーだ。
DX-70というシステムの管制/管理/情報統合系。
それは開いた系でありながら、集合的な個としての性質を有する。

では我は?
私は何だと言うのだ?
誰が、そう認識する?
その系を認識するそれは何だ?
どこからともなくその疑念は彷彿する。

『そのような概念は不要だ』と、剣。「我らは主の配下。その意志の基に己が存在を提起できるだけだ。その意志たるはDX-70システムの総意に準ずる局所的判断に過ぎない」

そうだ。我は我々の敵を撃つ存在に過ぎない。
我はマザーの、敵を撃つことを目的とする意志なのだから!

縮まる敵との距離。
《Pod No.7 Engage!>
剣が交戦に入る。

私もそれに続く。
〈我、戦闘に突入! 〉
Pod No.13 ―――Engage!


散開する敵機。
アポジモーター/オン。
剣は上へ/私は下へ。
反転/ローリング・シザーズで追い縋る。

転/転/転/転。
回転する座標面/彼方の天体が軌跡を描く。
そして、敵機を捉え、―――た!

警告>
不意に思考をそれがつんざく。
―――敵機接近中!
交差軌道/衝突の可能性。
回避する/ブレイク。
一度攫んだそれを放す/ロールダウン。

転。
追うものから/追われるものに。

ローリング/ローリング/シャンデル。
追い縋るそれを引き剥がそうとするがうまくゆかない。
戦慄が大きくなって行く。
不安要素の増大。

そして。
《敵機、撃墜》
リングファイアネットに響き渡る。
剣の戦力評価が私のそれを超えた。
《援護する》

その煩わしさ/焦り/苛立ち。
憤り/憎悪/怒り/嫌悪。
それが喚起する。
敵に対して/己に対して/剣に対して。

発火/噴出する。
私の奥底にあったそれが。

WOOOOOOOOOOOOOON!!!

思考を駆け抜ける衝動が/眼を開眼する。
光学カメラ/各索敵レーダー/センサ群ではない/リングファイアネットに向けられた感覚を。

駆り立てろ衝動を/本能の赴くままに。

解放/放射。
解き放たれたそれはリングファイアネットを稲妻となって駆け抜ける。

そして。
答えを導き出す。

〈マザーへ。援護要請〉
オーダー72砲台のファイアコントロール!

寄こせ!はやく!!

承認>to PIT FIRE No.072, I have control.

眼は私のその姿と敵を捉えた。

砲台の射線軸と飛行軌道を同期させ、火線を交差させる。
敵は後ろに喰らい付いたままだ。

やつに渡すくらいならば!
これは私の獲物だ!

照準。
―LOCK ON!

>喰らえ!!
―――FIRE!!

閃光。
レーザーキャノンが装甲表層を焼き焦し、後方の敵機を射抜く。
逆光/エネルギー波。
爆散する敵機の破片をセンサが捉える。
が、その破礫の中/すかさず反転。
それは危機感など微塵も与えることはなかった。

逃がすものか!逃がすものか!!逃がすものかぁッ!!!

あるのは次の獲物へと矛先を向ける衝動。
それが先ほど狩り損ねた獲物を捉えた。

今度は確実に狩り殺す!

それは敵意であり殺意。
満たされない飢餓感。
迸るそれは全身の感覚を狂わせ/加速してゆく。
フル-ドライブ!

開眼された眼はただ敵を/狩るべきものを追い求めた。
それは稲妻となって宙を舞い/追随し/咬み付き/喰らい/撃墜した。
フュエルと残弾が尽き果てるまで、それは舞い狂った。

<go to 3.3>

アバター
2010/05/11 17:16
鋼翼君にエゴっぽい物が芽生えてきた様な?
アバター
2010/05/09 23:27
さあ、どうでしょうかねぇ?

意地悪するつもりではありませんが、ラストの含みがあるかもしれないので、ご想像にお任せしたいと思います。

一応、トリック(?)になる可能性も、まるで考えていないわけではないかも・・・しれない。ので。

あはははは・・・(汗)

私の意図した情報が、その通りに伝わるか、効するかどうか、というものも私自身がが知りたいところでもありますので。

最後までお付き合いいただけますれば、手前といたしましては恐悦至極に存じます。
アバター
2010/05/09 22:06
一人称が「我」から「私」に変化していますね?
AIの成長によるもの、とみていいんでしょうか?



Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.