■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(9)
- カテゴリ:その他
- 2010/05/02 00:02:28
■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第二(3)
東海の客、我れは哲學に於いても、此の以外のものを求めんとするなり。
中世の哲學は基督教の註釋なり。智識の燭を掲げて、宗教の靈龕を照らさんとはしたれど、神秘の一扉これを遮ぎりて通ぜず。其の先は空しく反射して、自己の上に落ちたり。見られよ、かしこに佛のデカート等再び青き道に據り、群をなして登場せり、彼等が自己の左右を顧みて叫ぶを聞き給はずや。曰く、己れとは何物ぞや、と。是れ所謂近世哲學の開始を報ずる聲なり。されども斯くの如き思想の流れは、智識の範圍に於いてのみ完結せんとする限り、尚我が胸の深海には達すべくもあらず、唯これ表面の窪みを傳ふ一系の水脈に過ぎざるなり。我れも一たびは同じ道を尋ねんとしたれど、末は詩の都、神の宮殿とこそ心ざしたれ。
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*註1:東海・深海
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg
*註2:基督教・宗教
「教」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_oshieru.jpg
*註3:智識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg
*註4:掲げて
「掲」の旧字体。旁が「曷」。
*註5:靈龕
「龕」は正字か否かは印字が不鮮明のため不明。
⇒参照……正字の場合は「龍」の「立」の部分が「音」の正字と同じく、一画目が横棒となる。(下記見本字形は「音(正字)」)
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg
*註6:神秘・神の宮殿
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註7:一扉
「扉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hi_tobira.jpg
*註8:遮ぎりて通ぜず
「遮」「通」ともに旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註9:空しく
「空」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sora.jpg
*註10:青き道・同じ道
「青」の正字体。「月」は「円」。
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:所謂
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註12:近世
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註13:尚我が胸
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
*註14:達す
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註15:過ぎざる
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註16:尋ねんと
「尋」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
*註17:詩の都
「都」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/to_miyako.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1