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盗月Blog——島村抱月TextData——


■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(1)

■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第一(1)

    囚はれたる文藝

      第一

去年八月三日の夜は、我れ伊太利ナポリの港に舟がゝりして、感慨の事ども多かりし。中にも分けて老いたる文明のいぢらしさ。文藝の伊太利は死なざれど、さりながら、今の世に亡躯を曝らす哀れさよ。更にアドリアチコの海一つ越えては、同じ命渾の岸に、苦しき息吹の身を横たふる希臘。世は二十世紀の叫びけたゝましき頃を、御身も尚ほ求むる所ありてや、見る眼も傷ましき覺悟かな。
兎かう思ふ頃日は、ヴェシゥヰ゛アス山の背後に沈んで、跡に曳く五彩の輝かしさ。「死に行くものは皆斯くの如く」と天の示しに會ふ心地して、やがて浪の染め色、人の面の染め色、みな消ゆると見れば、そこにヴェシゥヰ゛アスの活きたる火こそ我が胸を焦したれ。



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*註1:ナポリの港
「港」の旧字体。「己」が「巳」。

*註2:感慨
「慨」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gai_nageku.jpg

*註3:分けて
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註4:文明・文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註5:亡躯
「躯」の旧字体。「区」が「區」

*註6:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註7:アドリアチコの海
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg

*註8:二十世紀
「紀」の俗字(か?)。「糸」+「已」。

*註9:尚ほ
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

*註10:求むる所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註11:輝かしさ。
原本では「輝かしさ」のあと、1文字分の空白となっているが句点「。」の脱字と思われるので改めた。

*註12:消ゆる
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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