■近代文藝之研究｜研究｜知識ある批評　(７)

世の輕卒なる者が批評の無用を唱へ若しくは批評の無根柢を難ずるに當たつて、多く陷るの弊は、此の鑑賞を批評の全部と速斷するにある。批評は鑑賞の上に説理を加へねば完結しない。批評は畢竟知識上の要求に應ぜんがために起こつたものである。
知識上の要求とは何であるか。曰はく、疑ひである、知らんと欲することである。此の簡單な命題を文藝の鑑賞に當てはめれば、其處に批評の必要といふ結論が出て來ると思ふ。
文藝の鑑賞に知識的要求の伴ふ場合が二つある。一つはたゞ其の理が知りたいといふ漠然たる欲求である。二は甲乙鑑賞の結果を異にしてゐる場合に、孰れが眞であるかを定めたいといふ欲求である。前者は一見唯好奇の知識慾であるが、併しあらゆる高尚なる學問は此の知識慾を本とする、少しく深く考へれば其れが決して無意義のもので無く、實に遠く人生の根本に連なつてゐることに思ひあたるであらう。



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＊註１：者
「者」の正字体。
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＊註２：批評
「評」の旧字体。
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＊註３：難ずる
「難」の旧字体。
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＊註４：陷るの弊
「弊」の旧字体。「敝」＋「廾」。

＊註５：全部
「全」の正字体。
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＊註６：速斷
「速」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註７：畢竟
「竟」の正字体。
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＊註８：知識
「識」の正字体。
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＊註９：要求・必要
「要」の俗字体。
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＊註10：起こつた
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

＊註11：伴ふ
「伴」の旧字体。旁の「半」が「拌」と同じ。
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＊註12：前者
「前」の旧字体。
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「者」の正字体。
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＊註13：併し
「併」の正字体。
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＊註14：高尚なる
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

＊註15：遠く
「遠」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註16：連なつて
「連」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

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