Nicotto Town



Be:19 touhu

始発の列車には他にも乗客が居たが、ここで降りたのは僕たちだけだった。

改札を抜けると、真正面の壁一面の窓から朝日が見えた。

「なんか、一晩で色々あったな」

「ありすぎたな」
ガントが答える。

「まだいじけてんの?」
少し僕から離れていた愛香を見る。

「…いじけてないもん」
ふくれっ面でそう答えた。

「大丈夫だ。ここから離れるまでは一緒なんだから。それまでにはいっぱい時間がある」

「そうだぜ。2カ月みっちりやっても足りないくらいだ」

「…うん」
そう僕たちが言うと、僕の隣まで来てくれた。

ふと地図らしきものが目に入って僕はそれに近づいた。

「補装具、カミムラ…。補装具ってなんだ?」

「それ、あたし聞いたことある。たしか、義手とか義足のことだよ」

「ああ、なるほどね。ガントの言ってた補助と補が一緒だから、つい目に入った。
…探しても補助が売ってそうな店は見当たんないや」
落胆したせいか僕の腹は鳴った。ついさっき食べたような気もするし、
もうしばらく、前から食べていないような気もした。
ああいう考え事は空腹を促すのだろうかと下らないことをなんとなく思った。

「24時間の店、あそこにあるぜ」
振り返るとガントがその方向に指差した。

「待って、とりあえず行く場所を決めとこう」

「思ったけどよ。補装具って一応メカだろ?」

「ああ、昔は樹脂だけだったらしいけど、最近は義手とか義足は機械が入ってるな」

「補助もそんな感じだし、ひょっとしたらあるんじゃね?その店に」

「んじゃ、ここ行くか」
あるんじゃね?で行動を取ってしまおうとしていたが、2人は乗ってきた。
もう1人、仲間が出来るなら慎重なやつがいいと思った。

「あ、その近くにジムがあるね。ジムの隣にはでかそうなショッピングモールもある。
ここで黒染めを買うか」

「だいたい決まったな」

「黒染めなんか、絶対売ってないもん」
必死の抵抗の愛香だった。

「売ってないわけがない。よし、食べに行こう」
絶対売ってないからと、もう一度愛香が無駄にあらがう。



メニューを見て僕たちは呆れかえっていた。
「俺、老人になったらここに住む」
「あたしも」

「僕も…。なんで8割が豆腐のメニューなんだよ!」

「しかも、なんで、ほかのメニューがラーメンと、ライスと、もちしかねえんだよ!」
ガントも便乗。

「もちってなによ!」
愛香も便乗。

「なんか、文句あんの?」
1人しかいない厨房のおばちゃんが僕たちに言った。

「ないです…。歯を気遣ってるんですよね。うん、よく分かります」
僕が弱々しく答える。

「豆腐なめんなよ?」

「豆腐食べます。舐めません」
そして、僕たちが注文したのが、ライスとマーボー豆腐、
大盛りライスと湯豆腐と冷や奴、ライスと豆腐ハンバーグ。

「ガント、湯豆腐と冷や奴って…、お前渋すぎだろ」

「わりと好きなんだよ」

「これ、豆腐で出来てんだ」
ガントの隣だった愛香がその腹を見て、ツンツンと指で突っつく。

「豆腐だったら、とっくに崩れてる」
愛香の頭をわしっと掴んでガントが言う。

「ガント何キロ?」
僕がした質問を愛香がまたする。

「だから、100キロ」

「デブ!」

「うるせ!」
掴んでいた愛香の頭をそのまま寄せて来て、両のこめかみをガントはグーでぐりぐりとした。

「痛い!痛いよお」

おばちゃんにうるさい、と怒られながらもその後も2人はじゃれ合っていた。
僕は笑いっぱなしで、目に涙がのぼって来て、腹も痛くなった。

料理が運ばれて来ても僕たちは決して落ち着かなかった。
「豆腐ハンバーグって、どうせハンバーグじゃないんだろ?ちょっと貸してみろ」
そう言いながら愛香のおかずを少し拝借した。もちろん返せない。

「ああ!あたしのハンバーグ!じゃ大地のも取っちゃう」
そして僕のも取られた。

「大地、愛香、これも食ってみろって」
ガントが勧めるが、僕も愛香も目線をくれてやるだけで、箸を伸ばさなかった。

「なんだよ。美味しいのに…」
ガントの反応に僕たちは笑った。




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