Be:18 dai 3 no
- カテゴリ:自作小説
- 2010/04/04 19:30:00
ガントの問いには、結局答えられなかった。無様にベンチに戻るとあれこれ考えた。
生きる意味とか、死ぬこととか。
もちろん答えは出ない。
ただ、気付いた。
今更すぎるが、皆いずれは死ぬんだ、ということと、
人を殺すための言い訳を僕らは探していたんだ、と。
そして、僕はやっぱり現実と向き合っていなかったんだと。
もういい、と思った。言い訳なんか、道徳と同じでどうせもう、役に立たない。
するべきこと、これからのことを考えることにした。
馬鹿みたいに興奮したって仲間を失うだけだ。
僕たちはこれから殺しをする。そこに正解があるはずがない。
野性の動物と同じように、守りたいものと自分だけを守るために他を狩るしかない。
僕はそこに、動物との違いを1つ加える。サバイバルを終わらせるという目的を。
答えはもう、出た。どうせ死ぬならやれる最大限をなりふり構わずやろう。
始発列車が到着すると愛香を起こして3人で乗った。
座席に着いても、列車が発車しても僕たちは無言だった。
ガントがその空気に耐えられなかったようで口を開いた。
「愛香はもう、嫌か?」
「ん?…」
愛香が何が?、といった風に答える。
【もうこの惨酷な現実は嫌か?】とガントが訊いているのは分かっているはずだった。
「今から向かうシニアタウンは老人がたくさんいる街だから、交渉すればかくまって貰えるかも知れない」
「んー…」
「これから俺らが敵に回そうとしてるのは、銃も新資源も持ってる国だ。
愛香をお荷物扱いにはしたくなかったけど、相手が国となると、
皆で仲良く生き残ろうってだけじゃ、うまくいかないかも知れないんだ」
「…」
愛香からとぼけたような雰囲気がなくなる。真剣に考えているようだった。
「シニアタウンだったら、絶対安全なの?」
僕がガントに訊ねる。
「連れていくよりはな。俺たちが仲間を集め出したら国は必ず勘付く。
体内に埋め込まれたやつも、ゴーグルもその手助けになるしな。可能性は100%だ。
比べて、シニアタウンは老人で出来てる街だから、殺したがりも自ら入ろうとはしないだろう。
そのうえ、かくまって貰えたらほぼ完ぺきに安全だろ」
「たしかに…。愛香はシニアタウンにいろ」
言うと愛香は俯いた。しかし、愛香はどうしても守らなくてはならない。
「あたし、強くなるから…」
「ダメ」
「なんで!」
噛みつくように言って来る。
「危ないの」
「やだよ…。なんでひとりにするの?…」
「1人じゃないよ。他にも人がいる場所だってガントも言ってるだろ」
愛香の問いはとても悲しかったが、ここで黙ってしまうわけにはいかなかった。
「知らないおじいちゃん、おばあちゃんなんてやだもん…」
「諦めろ、愛香」
愛香の方を向くのをやめて僕は言った。
「馬鹿!大っ嫌い!」
視界の端で愛香が真っ赤になって怒っていた。また泣きだすのかも知れない。
【シニアタウン、シニアタウン】
放送がなり、列車のスピードは落ちていく。