Nicotto Town



Be:17 chicken

自分勝手な感傷で愛香にハグをした僕を、愛香は静かに拒んで、手で押し返した。
彼女は寝ていなかったのだ。
その瞬間、僕はようやく冷静になった。そして、冷たい思考に触れた。
ガントは、僕は、愚かだったのかも知れない。
死んだ敵の分まで、なんて偽善に過ぎないんじゃないか。

そして、愛香は僕のせいで傷ついたんだと、改めて噛みしめた。

彼女はしんとしたまま、声も出さずに泣いていた。
「ひとりにしてほしい」という要求を口に出さずに、目を瞑ることで我慢していたのに、
僕は察してあげることが出来なかった。

優しさは押しつけるものではない。分かっていたはずだったのに。
辛く苦しい現実を、愛香は静かに泣きながらも受け止めようとしていたのに。

自分が無様だったし、どうしようもなく悔しかった。
そんな、僕と愛香の様子にガントは気づいていない。



ギャグを言うような気分にもなれず、僕は黙った。
ガントもなんとなく黙っていた。その脳にどんな思考が巡っているかは想像がつかない。

僕もガントも間違っていたとしたら、正解はなんなのだろう、と思う。
このサバイバルで殺していくという、行動をとる上でどんな思考が正解なのか。

それは死んだ敵を思いやることでもないとして、生きる為のいいわけでもないとしたら。

頭がパンクしそうだった。思考がたくさん浮かぶからではない。むしろその逆だ。
頭のうちをえぐるように考えても、それらしいことがまったく浮かばないのだ。
えぐり過ぎて内側から穴が開きそうだ。

「5千万円」
唐突に僕は呟く。なんだ、とガントは呟く。

「5千万円、僕はもう、いらないかも」
ためらいながらに僕は言った。結局迷っている僕がここにいた。

「…お前、馬鹿じゃねえの…」
心底呆れたように言うガント。

「馬鹿なのはこの国だろ…」

間を置かずガントは言う。
「じゃあ、なにが馬鹿じゃないんだ?」
それは僕があのメリケン野郎に言った言葉にそっくりだった。

「こないだまで続いてた日常が馬鹿じゃねえよ!あれが綺麗なんだよ!こんなの馬鹿だ!」
立ち上がってガントに向かって僕は叫んだ。相当にうるさい。けれど抑えることは出来なかった。

ガントにここで殺されるかも知れない。一瞬そう思った。
そんな行動を取るならそこまでのやつだったんだろう。
冷静にそう思う自分と、殺されたくないと怖がっている自分とがいた。
僕はどれだけ人を信じられなくなっているのだろう。自分に失望してしまう。

「現実を見ろ。んで、ゆっくり飲み込め。俺らはもう進むしかないんだ」
鋭い目が僕をとらえる。その目には震える僕が映っているのだろうか。

「僕は、殺したくない…」
目を伏せて言う。

「お前、生物として、終わってるぜ…」
ガントはゆっくりとそう言った。
そして、叫んだ。
「弱音なんか吐くんじゃねえ!んなもん聞きたくねえ!」

僕の情けない叫びなんかとは比べ物にならない音量と迫力。
雄叫び、という形容こそ、それにふさわしかった。
愛香の身体はその叫び声にびくっと反応した。僕も似たような反応をした。

「動物は生きる為に他の動物を殺すんだよ。俺らもそれをしなきゃ生きてけねえんだ。
これは義務だ。従わなきゃ自分が殺される」
息は荒いが、ガントはしっかりと感情を抑えてそう言った。とても現実的な意見だった。

「僕らは人間だ」
僕も自分の意見を通す。その時には漠然とした1つの案が頭の中に湧いていた。
それは二択問題においての第3の解答のようなものだった。

「なんか企みがあんのかよ。適当にそんなこと言ったんなら、一発ぶつぞ」

「この【馬鹿】を終わらせよう」

「このサバイバルをか。なに言ってんのか分かってんの…」

「どうせ死ぬかも知んないんだ」

「俺らなら切り抜けられる」

「だったら国にだってあらがえる」

「…」
ガントは黙った。考えているようだった。

「まず、仲間を集めるんだ。計画も練らなきゃいけない。相手は火器と新資源を持ってる」

「結局は誰かを殺すことになる」

予想は出来た言葉だった。
「…」
しかし、僕は答えられない。

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2010/04/04 03:50
今思うと、始まりから大分話が膨らんで来ましたね。
主人公も大分たくましくなりましたし、仲間も出来て。
この話の真の部分が垣間見れたお話だったと思います。
プレッシャーを掛けるとするならば、普通に政府を倒してハッピーエンド、政府に倒されバッドエンド。
かならずどっちかに転ぶ訳ですが、読者を裏切るようなエンドが見てみたいですね。

この時期、受験やら何やらで色々と忙しかったり、悩みを抱えてしまったりと大変ですが、
もし私何かで宜しければ愚痴も聞きますし、ウサ晴らしの助太刀もします^^*



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