Be:16 seoi ikiru
- カテゴリ:自作小説
- 2010/03/31 23:03:22
ガントによると、この期間中、参加者に対して鉄道路線が無償らしい。
キャッシュカードをそのまま改札に通せばいいとのこと。
しかし、今の時間帯、電車があるはずがない。
僕たちは待合室のベンチに座って始発が来るのを待っていた。
「ダメじゃん」
愛香が不機嫌そうに言った。
「怒るなって。あとちょっと待つだけだよ」
「うう…、やだ!」
「ほら、お兄ちゃん、なんとかしてやれ」
ガントがおもしろがって言う。
「ガントに高い高いして貰おうか」
「赤ちゃんじゃないの!」
その予想通りの答えに笑ってしまう。
「まぁまぁ、待つしかないんだよ」
「寒いんだもん…」
「しゃあないなあ」
言って、ガントはそのオレンジのブレーカーを脱いだ。愛香に渡す。
「うわあ、あったかーい。ありがと!」
愛香はそのブレーカーを毛布のように身体にかける。
暖かさに包まれて、またたく間に恍惚の表情である。
ガントの身体を見て僕は驚く。
「その出っ張りはなに?」
つられて愛香も見る。
「あ、本当だ」
「補助は、身体に埋め込むんだ」
長袖の上からでも分かる。
ガントの身体には、彼の言う通り、何かが埋め込まれているような出っ張りが幾つもあった。
特に目立つ場所は肩や前腕、上腕だ。胸や腹にもあるがそちらは割と目立たない。
注意して見てみると背中にもあった。
「痛くないの?」
「痛みはない。補助の方が、勝手に同化していくんだ。
だから、本当の意味で身体にフィットするし、違和感がない。
身体の一部になるからね」
とガントは笑う。なかなか格好よかったりもする、と付け加える。
「ちょっと気持ち悪いね、愛香」
「ねえ」
「お前ら、ひでえな…」
泣きそうな調子で言う。
しばらく、ガントと冗談を飛ばしていたが、やがて愛香の頭が垂れて僕の肩に乗った。
「お前の爆発のせいで愛香、あんま寝られなかったんだぞ」
「派手にやりたいじゃん」
「やらんでいい」
「まぁ、悪いことしたよ」
「いいけどな。確認だけどお前、今いくらあるんだ?」
「10枚」
「30万か。って、そんなにやったのか?」
「全部あのホテルでだ」
「ん?」
「お前、一回窓際にいたろ。あの時、資産集めに丁度そのホテル調べててな。
昼間のやつじゃん、って思って今日に待ち伏せして渡そうとしてた傘を持ってきてから、
爆弾で窓を破りながら、上の階から順に、んで最後にはお前の部屋に着くように
ルートを立てて、実行したんだよ」
「それで9人も…」
「…なんだよ。責めるのかよ」
「そうじゃないよ。
ただね、やっぱどんどん殺していかなきゃいけないのかなあ、って…」
「わがままだろうと、生きる為だ。
お前にしたって、守りたいもんは守るしかないだろ。悩むこた、ねえよ。
俺らは生物の本当の姿に戻るだけだ。道徳なんて、もう役立たずだ」
言われて僕は思いだす。僕がめちゃくちゃに殺した、あの金髪のことを。
ガントの言葉で後悔はしなかった。生きる為だったからだ。
しかし、どうしても、なんとも言えぬ気持ちになった。
これだけは、どうあがいても、避けては通れないのだと思う。
それは自分のしたことの惨さと全身で向きあい、それを受け入れるということ。
「なんか、…どうしようもなく悲しいな」
「殺したやつ、死んだやつの魂まで背負ってくんだ。強く生きようぜ。そいつらの為にも」
ガントが言う。
「おう、当たり前だ」
答えると、寝ている愛香に僕はハグをした。
これから起きることは愛香には辛すぎるかも知れない。
そう思うと、愛香が愛おしく、また、可哀想になった。
だから僕は愛香にハグをした。
彼女は僕がどんな気持ちでハグをしたか、気付いていたのかも知れない。
ただ、寝ているふりをしていたのかも知れない。
ベタな表現になるが、やっぱり僕には知るよしがない。
最初の印象で怖そうな感じと言いましたが、意外とここまですらすらと読んで来れました!
それぞれの掛け合いも面白いです。
この状況下で、この明るさでいる3人とくにアイカさんは、すごいですね。
”死んだやつの魂まで背負っていくんだ。”
本当にそうですね・・。
ガントとタイチが、勝ち抜いて良い世界を築いてほしいと・・・思いました。