Be:11 big
- カテゴリ:自作小説
- 2010/03/30 17:36:51
愛香はもう寝入ったようで、その微かな息遣いが聴いてとれる。
自分のベッドまで一度戻ると、ベッドの横にあった鞘を失った剥き出しの剣を手に取った。
こういうのって、なにで手入れするんだろ…。時代劇、見とけばよかったなぁ。
ぼんやりとしたランプの光の中で、時折布団の擦れる音を立てて、愛香が寝返りを打つ。
そんな日常的でとるに足らない彼女の行動も、どこか、今の僕を癒してくれる。
正解かどうかも分からない手入れをだいたい終えると、布団を放ったままでベッドに横になった。
このまま寝られればいい、と思った。
突如、何かが落ちたような大きな音が窓の方向に響く。素早く身体を起こす。
音のした方を確認するも、再度引いていた分厚いカーテンが邪魔で何も分からない。
とりあえず愛香を、窓から遠い僕のベッドに移そうとして、抱き上げた。
何事かと嫌そうにまぶたを上げ、寝惚けまなこで僕をとらえる。
僕のベッドに振り向く途中だった。
同じ、窓の方向で大きく派手な音がすると、間髪を入れずに窓が割れる音がした。
急いで愛香を降ろすと剣を取り振り向く。
破れて、ところどころを焦がしたカーテンをバックに何かが仁王立ちでいる。
その大きさに最初は怪物かと思った。
バサッ、と安っぽい音をさせて何かをこちらに突きだす。
よく見るとそれは僕の傘だった。昼間にあの金髪に投げ捨てられた、この剣の鞘。
「届けに来てやったぜ」
その横にも縦にも大きな身体とは、およそ釣り合わない軽い声と口調。
顔はよく見えない。
「爆弾をか?」
「傘だよ。見えねえのか?あ?」
これでもか、というくらいに傘を乱暴に揺らす。
「見える、見える」
「そこの娘はもう用済みか?」
「…」
「ふーん、そういうことね。まぁ、小6をここに混ぜる大人たちもいかれてるけど、
どんな事情があろうと、使えねえやつに構うお前も馬鹿だぜ?
12、3の餓鬼が戦えるわけねえ。女子なんて尚更だ。ん?だろ?」
口早にそう言う。確かにその通りだった。
「最初から諦める馬鹿じゃないんだよ。僕は。
見捨てて死なせるくらいなら、一緒に死んだ方がマシ」
腕を掴まれる。愛香だ。
その手を握り返す。心配は無用だ。
勢いで言ってしまったわけではない。これが僕の現実だ。
明日のこの時間には死んでいるかも知れない。だから、なんだというのだ。
「嫌いじゃないぜ。そういう馬鹿」
言うと彼は鼻で笑った。そして、ゆっくりと近づいて来る。
「でけえ…」
そばまで来るとその大きさがよりよく分かる。2メーターはある。
恰好はダボダボの上下で、上はオレンジのブレーカー。
長髪のオールバックで、茶色。背中には何やら武器があるようだった。
「だろ?こんなやつ仲間にいたら12、3の女子だって守れるぜ」
「だな」
自然と笑みがこぼれる。
「ふん」
口角を上げて笑いながら彼がその大きな手を差し出す。
僕はためらいなくその手を握り返した。