Nicotto Town



Be:11 big

しばらく考えていたが、いい案は思いつかない。
それどころか、思考はどんどんネガティブになっていく。

愛香はもう寝入ったようで、その微かな息遣いが聴いてとれる。
自分のベッドまで一度戻ると、ベッドの横にあった鞘を失った剥き出しの剣を手に取った。

こういうのって、なにで手入れするんだろ…。時代劇、見とけばよかったなぁ。
そんなことを思いながら、ランプの横に置かれたティッシュを箱ごと持ってきて、汚れを落としていく。

ぼんやりとしたランプの光の中で、時折布団の擦れる音を立てて、愛香が寝返りを打つ。
そんな日常的でとるに足らない彼女の行動も、どこか、今の僕を癒してくれる。

正解かどうかも分からない手入れをだいたい終えると、布団を放ったままでベッドに横になった。
このまま寝られればいい、と思った。



突如、何かが落ちたような大きな音が窓の方向に響く。素早く身体を起こす。
音のした方を確認するも、再度引いていた分厚いカーテンが邪魔で何も分からない。

とりあえず愛香を、窓から遠い僕のベッドに移そうとして、抱き上げた。
何事かと嫌そうにまぶたを上げ、寝惚けまなこで僕をとらえる。

僕のベッドに振り向く途中だった。
同じ、窓の方向で大きく派手な音がすると、間髪を入れずに窓が割れる音がした。

急いで愛香を降ろすと剣を取り振り向く。



破れて、ところどころを焦がしたカーテンをバックに何かが仁王立ちでいる。
その大きさに最初は怪物かと思った。

バサッ、と安っぽい音をさせて何かをこちらに突きだす。
よく見るとそれは僕の傘だった。昼間にあの金髪に投げ捨てられた、この剣の鞘。

「届けに来てやったぜ」
その横にも縦にも大きな身体とは、およそ釣り合わない軽い声と口調。
顔はよく見えない。

「爆弾をか?」

「傘だよ。見えねえのか?あ?」
これでもか、というくらいに傘を乱暴に揺らす。

「見える、見える」

「そこの娘はもう用済みか?」

「…」

「ふーん、そういうことね。まぁ、小6をここに混ぜる大人たちもいかれてるけど、
どんな事情があろうと、使えねえやつに構うお前も馬鹿だぜ?
12、3の餓鬼が戦えるわけねえ。女子なんて尚更だ。ん?だろ?」

口早にそう言う。確かにその通りだった。

「最初から諦める馬鹿じゃないんだよ。僕は。
見捨てて死なせるくらいなら、一緒に死んだ方がマシ」

腕を掴まれる。愛香だ。
その手を握り返す。心配は無用だ。

勢いで言ってしまったわけではない。これが僕の現実だ。
明日のこの時間には死んでいるかも知れない。だから、なんだというのだ。

「嫌いじゃないぜ。そういう馬鹿」
言うと彼は鼻で笑った。そして、ゆっくりと近づいて来る。

「でけえ…」
そばまで来るとその大きさがよりよく分かる。2メーターはある。
恰好はダボダボの上下で、上はオレンジのブレーカー。
長髪のオールバックで、茶色。背中には何やら武器があるようだった。

「だろ?こんなやつ仲間にいたら12、3の女子だって守れるぜ」

「だな」
自然と笑みがこぼれる。

「ふん」
口角を上げて笑いながら彼がその大きな手を差し出す。
僕はためらいなくその手を握り返した。




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