Nicotto Town



Be:6 otouto no yome

このまま放っておけば必ずこの子は殺されるだろう。
どう生かすか、それが問題だ。
 
そして新しい疑問がひとつ。
果たして会う人、会う人、全員を殺さなくてはならないのか?
 
確かに賞金5000万と、脳味噌に入れる最新のコンピューターは
千人限定だけど、僕はそれが欲しいのだろうか。
まぁ、嘘はよそう。
確かに欲しい。欲しいけれどこの子はどうしても殺せない。
 
 
 
「いいんだ…」
ポツリと呟く。
 
「…ん?」
首をかしげて彼女がこちらを見る。可愛らしい仕草である。
ぜひとも弟の嫁にしたい。
 
「いいんだ。殺さなくても」
 
「…」
困ったようにうつむく。
 
僕も言葉に詰まる。
 
「まぁ、とりあえず、君は弟の為に殺さない。
君も必死こいて生きようとするんだ」
返事は期待しなかった。最近の小学生は難しい。
曾おじいさんの言葉だ。弟と接しながらそんなことを僕に言っていた。
複雑な気分だったが、多分その通りなのだろう。
 
「行くぞ」
ありったけの元気で言うと、そこから出た。
間もなく彼女がついて来る。
 
 
 
相変わらずの住宅街を宛てもなく歩きながら、隣の彼女に問いかけた。
「そういえば、名前、知らなかったよね」
 
「…アイカ、です」
 
「漢字は?」
 
「愛情の愛に、香りの香です」
 
「ふーん、僕に娘が生まれたらその名前にするよ」
気の利いた冗談が浮かばずそんなことを言った。
 
「はい、ぜひ」
皮肉っぽい了承が得られた。
 
「うん、ぜひ」
力強く頷く。
 
「うぅ…」
腹でも下したかのような声。
 
「…なに?」
 
「なんだか、言い負けた気分です…」
 
「くっだらねぇー」
思わず笑ってしまう。彼女も笑った。
 
ふと空を見ると、雲行きがあやしい。どんよりとしている。こんな住宅街じゃ雨宿り出来る場所はあまりない。
 
「ちょっと走るか」
 
「え、…うん」
 
「きつくなったら、おんぶしてやるけぇ」
 
「けぇ?」
気が緩んで思わず変な方言が出てしまった。
変、というのは、どちらかというと自覚はあった。
身近な人間にしか使っていなかったので、少し恥ずかしいが、あとには引けない。
 
「おう、きつくなったら、おんぶしてやるけぇ」
もう一度言う。
 
「…」
またうつむいた。
 
「結構です、ってか?まぁ、好きにして。遅いと思ったら嫌でもかつぐから」
その顔を覗く。
 
「覚悟しておきます…」
嫌そうな顔で答える。
好感の持てない小学生だ。こんな子、絶対、弟の嫁にしてやるもんか。
矛盾などしていない。僕の気分が変わっただけ。
 
 
 
走り出してからしばらく経つと小雨が降り出した。
 
小雨で収まるうちなら我慢しようと決めていたので、
そのまま彼女のペースに合わせながら走り続ける。




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