Be:3 sini ni iku coto ga
- カテゴリ:自作小説
- 2010/03/28 21:45:46
僕は、抽選で選ばれていた。
そのサバイバルのスタートは明日の8時からだ。
僕は、どんな感想も持てずにいた。
あるいは、選ぶ感情があり過ぎて、選べなかった。
「お前も選ばれりゃよかったのに」
夕飯の席、僕は弟に言った。
家族一同、食べるのも中止して僕を見た。
僕の言葉に答えたのは父親だった。
「ヒーローは1人で十分だろ。死ぬかも知れないけどな」
父親はおかしそうに1人でけらけらと笑った。
母親は今日、全く会話に入って来ない。いつものマシンガントークは弾切れの様子だ。
その表情も死んだ魚のようだった。
「お父さん、ひどいよ」
言ったのは弟。
「ひどくねぇだろ。本当なんだからよ」
僕が言うと、母親が一瞥して来た。
なんだか家族の雰囲気が面倒だったので、さっさとご飯を平らげると風呂に入った。
一連の作業を終えると湯船に浸かる。
ボーっとしていると、ふと浮かんだ。【死んだら、どうしよう】という疑問が。
しばらく考えたが答えは見つからい。ならばと、打開策を練る。
だが、棄権は出来ない。初めからこれは権利ではなく義務なのだ。
参加者が強制的に埋め込まれる小型の発信器、それもすでに身体のどこかで、
強化期間が終了しない限り終了のプログラムが作動せず、
活動停止もしなければ細胞への同化もしない。
はっきりしない、もやもやとした気持ちが大きくなっていく。
どうすればいいのだろう。
のぼせてきたので、あがることにした。
髪を乾かし終えると、キッチンに移動して一杯の牛乳を飲み干す。
物心ついた時からの習慣だ。
とても健康的である反面、なにかとツッコミをたまわる。
【銭湯か!】【温泉か!】【おやじか!】【100円か!】と。どれもハズレ。
いつもなら牛乳のあとは歯を磨いて、すぐに寝るが今日はまだ寝たくなかった。
家族のいるリビングを避け、食卓の椅子に座る。
何気なくそのままぐるっと回った途中で、窓に映る自分が確認出来た。
いつもの無表情だった。夕方に彩に突っつかれた方の頬を引っ張ってみる。
もう一度、突っつかれたい思いがした。
するとそこに
「チャンバラしようぜ」
おもちゃの日本刀を2本持った父親が来た。
「チャンバラ?」
「そう、チャンバラごっこ」
「おう、受けて立つ。…っしゃーーー!」
席を離れ、コールデンタイム後半にも関わらず、気合を入れるように叫び、
頬をぱんぱんと手で張る。
これなかなかに痛い。
「で、チャンバラのルールってどんな感じなの?」
子どもの時、僕と弟が遊ぶ時によく使っていた
当たっても痛くない素材の日本刀を素振りしながら僕に訊ねる。
「分からんね~」
「じゃあ、突きなしで」
言って僕に1本渡す。
「剣道?」
「そそそ」
「じゃあ、いくよ。…はっけよい」
言うと、両者適当な構えをし、父親が叫ぶ。
「のこった!」
まず一発、互いの剣をぶつけ、そこから両者の攻防を繰り返す、そんなふりをする。
剣道というよりは、防御に構えた相手の剣に自らの剣をぶつけていく、という感じだ。
「お主!なかなかやるな!この帰宅部」
「お前もな!このフォーティーハゲ」
「まだフッサフサだ!」
「何を!毎朝、育毛剤を使ってることは知ってる!」
「うっ…」
防御に入った僕の剣に剣を当てずに、
わざとらしいうめきをあげ、倒れる父親。ついでに嘔吐のふりもしてみせる。
周到な芝居だ。
視線を感じ、そちらに目を向けると腕組みをして口の端で笑う母親と、
どこか寂しそうな弟がいた。父親はまだ芝居を続けていた。
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