Nicotto Town



Be:3 sini ni iku coto ga

僕は、抽選で選ばれていた。
そのサバイバルのスタートは明日の8時からだ。

僕は、どんな感想も持てずにいた。
あるいは、選ぶ感情があり過ぎて、選べなかった。




「お前も選ばれりゃよかったのに」
夕飯の席、僕は弟に言った。

家族一同、食べるのも中止して僕を見た。

僕の言葉に答えたのは父親だった。

「ヒーローは1人で十分だろ。死ぬかも知れないけどな」
父親はおかしそうに1人でけらけらと笑った。

母親は今日、全く会話に入って来ない。いつものマシンガントークは弾切れの様子だ。
その表情も死んだ魚のようだった。


「お父さん、ひどいよ」
言ったのは弟。


「ひどくねぇだろ。本当なんだからよ」
僕が言うと、母親が一瞥して来た。


なんだか家族の雰囲気が面倒だったので、さっさとご飯を平らげると風呂に入った。




一連の作業を終えると湯船に浸かる。

ボーっとしていると、ふと浮かんだ。【死んだら、どうしよう】という疑問が。


しばらく考えたが答えは見つからい。ならばと、打開策を練る。

だが、棄権は出来ない。初めからこれは権利ではなく義務なのだ。
参加者が強制的に埋め込まれる小型の発信器、それもすでに身体のどこかで、
強化期間が終了しない限り終了のプログラムが作動せず、
活動停止もしなければ細胞への同化もしない。


はっきりしない、もやもやとした気持ちが大きくなっていく。
どうすればいいのだろう。


のぼせてきたので、あがることにした。


髪を乾かし終えると、キッチンに移動して一杯の牛乳を飲み干す。
物心ついた時からの習慣だ。

とても健康的である反面、なにかとツッコミをたまわる。
【銭湯か!】【温泉か!】【おやじか!】【100円か!】と。どれもハズレ。


いつもなら牛乳のあとは歯を磨いて、すぐに寝るが今日はまだ寝たくなかった。

家族のいるリビングを避け、食卓の椅子に座る。

何気なくそのままぐるっと回った途中で、窓に映る自分が確認出来た。
いつもの無表情だった。夕方に彩に突っつかれた方の頬を引っ張ってみる。
もう一度、突っつかれたい思いがした。


するとそこに
「チャンバラしようぜ」

おもちゃの日本刀を2本持った父親が来た。


「チャンバラ?」


「そう、チャンバラごっこ」


「おう、受けて立つ。…っしゃーーー!」
席を離れ、コールデンタイム後半にも関わらず、気合を入れるように叫び、
頬をぱんぱんと手で張る。
これなかなかに痛い。


「で、チャンバラのルールってどんな感じなの?」
子どもの時、僕と弟が遊ぶ時によく使っていた
当たっても痛くない素材の日本刀を素振りしながら僕に訊ねる。


「分からんね~」


「じゃあ、突きなしで」
言って僕に1本渡す。


「剣道?」


「そそそ」


「じゃあ、いくよ。…はっけよい」
言うと、両者適当な構えをし、父親が叫ぶ。
「のこった!」


まず一発、互いの剣をぶつけ、そこから両者の攻防を繰り返す、そんなふりをする。
剣道というよりは、防御に構えた相手の剣に自らの剣をぶつけていく、という感じだ。


「お主!なかなかやるな!この帰宅部」


「お前もな!このフォーティーハゲ」


「まだフッサフサだ!」


「何を!毎朝、育毛剤を使ってることは知ってる!」


「うっ…」


防御に入った僕の剣に剣を当てずに、
わざとらしいうめきをあげ、倒れる父親。ついでに嘔吐のふりもしてみせる。
周到な芝居だ。


視線を感じ、そちらに目を向けると腕組みをして口の端で笑う母親と、
どこか寂しそうな弟がいた。父親はまだ芝居を続けていた。

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2010/03/28 22:03
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