Nicotto Town



Be:2 kulokami no

背の高い遊具に僕たちは登っていた。

さっき登って来た螺旋階段は、よく見ると相当にくたびれている。


「雲の上ってずっと晴れてんのかのぉ」
木の天井を見ながら僕は言う。


「は?」
半笑いで彼女が横から顔をのぞかせる。その顔をちらっと見る。


「雲の上ってずっと晴れてんのかのぉ」
もう一度言う。


「そりゃね、雲の上に雲はないからね」
女子高生で年下好きの彼女が答える。


「あのさ、思うんじゃけど」


「なに?」


「僕の弟の方が歳下だよ?僕14、彼12」


「だって、まだ小学生でしょ?小学生は法的にアウトだなぁ」


「そんな法律ありません。それにあと一年もすれば立派な中学生になるけ」


「じゃあ乗り換えを考えるのは、なってからでもいいね。
それより、
その、どこのなまりとも分からない、それ。いつになったらやめるの?
今の時代、なまる人間なんて滅多にいないよ?」


「やめるつもりはねぇんだ」


「変なの…」


「東北じゃあ、【い】の列が【う】の列になまるんだ。
【はし】が【はす】に聞こえたりね」


「む、だ、ち、し、き」
言いながら頬を突っついてくる。


曾おじいさんの葬式から一週間経つ。特に変わったことはない。
ただ、葬式のあとの宴会、つまり法宴での大人たちの盛り上がり様は、
異様だったのをよく覚えている。

それに対して静かに憤慨していた弟の、きりりとした表情もよく覚えている。




「ねぇ、たいちゃん」
急に名前で呼んで来るので少しドキッとした。


「…なに?」


「好き」
非常にのんびりとした口調と様子で抱きついて来る。

少し押されながらも、僕は彼女の背中にそっと手を添える。
彼女の長い黒髪はいつもいい香りだ。


17歳、年下好き、女子高生、僕の彼女。
名前を、色彩の彩と書いて、【あや】と読む。


今の態勢では、空くらいしか確認できないが、
それで分かる、夕闇が全てを無差別に覆っていることが。
遠くでサッカーの練習をしている連中も。林でやかましく鳴く雀たちも。
僕たちが収まる、この遊具も。


部活や生徒会に入らず、
学校が終わっては彩と毎日会っている変わりばえのない自分と自分の日常、
それに今日、終止符が打たれる。それは寂しいことかも知れない。


不意に彼女が鼻をすする。泣いているようだ。


「怪我しちゃ、やだよ?」


「それは無理だ」


「じゃあ…、生きて帰ってきてね」


「もちろん」
僕にキザなことが出来ないのは分かっていた。
だから今、精一杯の力で抱きしめる。伴うように彼女は嗚咽を漏らす。


「行ってくるよ」
そう言うと彼女から離れた。

彼女の目を一度見ると、階段を駆け降りる。
鼻を赤くし、目から涙を溢れさせている彼女を、
僕はとてもじゃないが見ていられなかった。

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2010/03/28 22:02
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