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■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義(19)

■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義 (19)

簡にして美なる絶好の説明批評と稱してよからう。而も之れすら「心余りありて言葉足らず」といふ推理の辭を冠するを禁じ得なかつた。文屋の康秀を評して「あき人の善ききぬ着たらんが如し」といひ「言葉巧みにて其のさま身におはず」と推理したのも、小野の小町を評して「よき女の惱める所あるに似たり」といひ「強からぬはおうなの歌なればなるべし」と推理したのも皆同一經過である。唯貫之は業平の評に於いて、康秀の評に於いて豫め「歌は凡て言葉と感想と一致せざるべからず」といふ規則をば有してゐなかつた。また小町の評に於いて「歌は凡て作者の人物を現出す」といふ結論をも作らなかつた。是れその説明批評に屬する所以である。けれども是れから一歩して規則標準を作り出すのは譯も無いこと、成程貫之は「言葉と感想とは常に一致せざるべからず、業平康秀の歌は此の理に合せざるが故に完美ならず」とは言はなかつたが、之れを逆にして「業平康秀の歌は言葉と感想と一致せずして完美ならざりき、されば完美の歌は兩者常に一致せざるべからず」とは容易に言はせ得やう。

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*註1:簡にして美
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:絶好の
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg

*註3:説明
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註4:批評・評して・評に於いて
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

*註5:文屋の康秀
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註6:惱める所・所以である
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註7:強からぬ
「強」の俗字。旁が「口」+「虫」。

*註8:同一經過
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註9:業平
「平」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hei.jpg

*註10:作者の人物・兩者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註11:成程
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註12:之れを逆にして
「逆」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

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