■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義(11)
- カテゴリ:日記
- 2010/03/17 20:56:37
■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義 (11)
頃は千八百三十年二月廿五日の夜、あらゆる戰鬪準備を整へて鐵の如き決意を合言葉に、テアターフランセースの劇場に新文藝の狼烟を擧げたものは、ヴヰクトル、ユーゴーといふ若い詩人であつた。作は『エルナニ』。夕方から新派に味方するものは後ろや二階の席あたりにひし/\と詰めかける。平土間、うづらには當時文壇の主權を擁してゐた反對派クラシシズムの人々が陣取つてゐる。而して幕は明いた。ユーゴーが思ふ圖は外れず、開卷第一に舞臺の上なる女主人公が戸の音に耳を傾けながら唱ひ出だす句は、ことさらに巧んで舊來の格を破つた跨ぎ句であつた。當時の古典的な好尚には、詩の句は必ず一句の境が一意の境であつて欲しい。斯やうにすればおのづから句法が整然として、明晰典雅の調を具して來る。けれどもユーゴーは之れを避けた。
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*註1:頃は千八百三十年
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:テアターフランセース
「フランセース」は「フランセーズ」のほうが正確かと思ったが、「テアトル」ではないので、これは英語読みのつもりで記し、それだと語尾が「ス」になるのかもしれない。また単純に「ズ」の誤植かとも思ったが、よくわからないので原本どおりとした。
*註3:新文藝の狼烟・文壇の主權
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
「狼」の異字体。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/rou_ookami.jpg
*註4:ひし/\と
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg
*註5:平土間
「平」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hei.jpg
*註6:女主人公
「公」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kou_ooyake.jpg
*註7:戸の音
「戸」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ko_to.jpg
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg
*註8:古典的な好尚
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
*註9:跨ぎ句
原本では「跨き句」となっていたが誤植と思われるのであらためた。
跨ぎ句とは「enjambement」(アンジャンブモン)のこと。
*註10:一句の境が一意の境
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg
*註11:之れを避けた
「避」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html