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■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義(9)

■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義 (9)

予は此所で此の兩説を是非しやうといふのでは無い。其孰れが是としても、面白い説明である。此等の批評ありしが爲に、ラオコーンといふ一藝術品は幾層倍味ひの源を豐にし得たか測られまい。今日では、此の一團の彫刻像から如上の批評を分け去ることは出來ぬ。此の批評は殆ど作品そのものゝ生命の一部と化し了つたといつても差しつかへはあるまい。我等が此の像を打ち仰いで見てゐる刹那ヴヰンケルマンやレツシングの言つた所を想ひ起こして、成程斯うもあるか、ああもあるかと思念するときは、即ち趣味の分量がそれだけ豐富になつたのである。而して此の種の批評は實に説明的批評である。ラオコーン像が有する生命を、推理を交へて説明せんとしたものである、取り廣けて其の成分を解説せんとしたものである。



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*註1:此所で・言つた所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註2:此の兩説・面白い説明・實に説明的・説明せんと・解説せんと
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註3:此等の批評・此の批評・此の種の批評・批評である
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

*註4:幾層倍
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。

*註5:分け去る・趣味の分量・其の成分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註6:レツシング
これまで抱月は、レッシング(Gotthold Ephraim Lessing)のことは「レスシング」と記述している。ここで表記を変えたのか、誤植なのか、判断がつかないのでそのままとした。

*註7:想ひ起こして
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註8:成程
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註9:推理を交へて
「交」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kou_majiwaru.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html




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